神田裕子著『職場の「困った人」をうまく動かす心理術』(三笠書房)、読了。
発売前からネットで大炎上した話題の本。ASDやADHDなどの発達障害や精神疾患の特性を持つ人々を「困った人」と表現していることや、彼ら/彼女らを動物のイラストで表現している点が差別的であると批判されていた。出版を差し止めろという騒ぎにもなり、出版社と著者が見解を公表するという事態にもなった。
純粋に本書の内容に興味があったので読んでみたが、いまの時代には受け入れられないような表現や、違和感のある表現もあった。それを不快に思う人も少なくないと思う。ただ、著者が「困った人」を差別している訳ではないということも分かる。
著者は、「誰しも多かれ少なかれ発達障害に類する特性を持っていて、その特性に濃淡があるというだけ」(P35)であり、ASDやADHDなどの発達障害であっても、それを「個性として面白がるくらいの寛容さが必要なのではないかと思う」(P36)と書いている。これは、随分前から私も思っていたことである。この類の本を読む度に、私自身もASDやADHDの特性が見事に当てはまるのだ(特に若い頃の私は)。病院に行けば、きっと発達障害と診断されるに違いない。しかし、それで生活に支障が出たことはないし、「病気」だとも思わない。今となっては「個性」だと思う。「誰しも多かれ少なかれ発達障害に類する特性を持っていて、その特性に濃淡があるというだけ」というのは同感である。
本書と同じ時期に発売されたアンデシュ・ハンセン著『多動脳 ーADHDの真実』 (新潮新書)にも、人は多かれ少なかれADHDの傾向をもっていて、人類が狩猟民だった頃はADHDは優れた資質だったというようなことが書かれている(近年ADHDが急激に増えたのは製薬会社によるキャンペーンだとも書かれている)。
著者がいう「困った人」には職場でハラスメントをする人なども含まれる。そういった人のせいで、「デキる人」や「いい人」が苦しみ、傷つくことがある(P2)。本書は、そのような職場にいる「困った人」に対する対処法を、多くの事例を紹介しながら教えてくれている本である。
周りには色んな「個性」を持った人がいる。そういう人たちとどうやって向き合ったらいいのか分からないシーンに必ず出会うし、自分だけでは解決できず、職場や産業医などと共に解決しなければならないシーンもある。本書は、そういった場面でどうすべきかの参考になると思う。