今回の記事は、 てりたまさん(玉井照久先生)が企画された公認会計士試験合格者の皆さんへのリレーメッセージの第34走者としてバトンを受け継いだものです。





合格発表の翌日の11月16日から12月30日までの45日間、45人の公認会計士が合格者の皆様にメッセージを送っています(上のリンク先から閲覧できます)。このような企画を立案された てりたまさんには敬意を評します。また、この企画にお声がけ頂いたことに感謝申し上げます。



本年度の論文式試験に合格された皆様、合格おめでとうございます。

合格者へのメッセージということで、私が監査法人入所1〜2年目に学んだことを、3点に絞って書きたいと思います。これから監査法人等で働く皆様のご参考になれば。



■ ビジネスは「謙虚さ」が一番大事

私は合格したのは大学を卒業してから3年後でした。25歳で社会人デビュー。遅れを取り戻したいと、当時最も忙しいと言われていたKPMG(現 あずさ監査法人)東京事務所国際部に入所しました。

配属初日のことは忘れられません。国際部に配属された約30名の新人が座る会議室に人事担当のSパートナーが現れたかと思うと、「おめーら! おめでとうって言ってやるよ!」と大声で怒鳴り始めたのです。「恐ろしい所に来たもんだ…」と思いました。

そのSパートナーが、続けてこんなことも言ったのです。「おめーら! 公認会計士試験に合格しても、この組織の中ではピラミッドの最底辺の人間ってことを忘れんじゃねーぞ! 謙虚さを忘れんじゃねー!」と。

この時、私は、ガツーンと頭を叩かれたような気分になりました。合格発表後、入所・配属までの期間、「俺は会計士試験に受かったんだ!」「会計士の仲間入りだ!」と、若干浮かれていたところもありました。そこに「最底辺の人間ってことを忘れんな」「謙虚さを忘れんな」と言われ、目が覚めました。

あの日から20年以上が経ちましたが、今でも「謙虚さを忘れんじゃねー!」というSパートナーの言葉を忘れることはありません。ビジネスで最も大切なことは「信頼」であり、そのためには「謙虚」でなければなりません。会計士だからといって横柄な態度を出せば、一瞬で信頼を失います。失った信頼を取り戻すことはほぼ不可能です。特に独立すると、クライアントから信頼を失うということは、即収入を失うということに繋がります。普段から信頼獲得・信頼維持に務めることです。



■ 会いたい人に会いに行くことが最大の自己投資

社会人になるのが遅かったため、「人が10年かかって到達する所へ5年で行こう」と、入所直後から夜中も休日も働き続けました。1年目から残業時間が多すぎ、人事担当パートナーから呼び出され、「働きすぎだから、担当する仕事を減らせ!」を言われたこともありました。しかし、パートナーを説得し、働き続けました。国内上場企業の監査のみならず、米国・EU企業の監査や、独立行政法人・特殊法人の監査を行ったり、さらにはKPMGのグループ会社でコンサルティングをさせて頂いたりと、幅広い業務を経験することができました。1年目からは異例のインチャージに抜擢されたことも、いい経験となりました(大変でしたけどね)。

1年目からここまで幅広い仕事ができたのは、「この人と仕事がしたい!」と思った上司・先輩がいたら、とことん懐に入り込んでいったからです。

上司や仕事は「ガチャ」かもしれません。組織で働く限りは、イヤな上司に当たったり、イヤな仕事を振られたりすることは必ずあります。しかし、尊敬できる上司や先輩も必ずいます。私もKPMG国際部の中で、大尊敬の上司・先輩が数名いました。そのような方々には、遠慮なく話しかけ、甘え、食事に連れて行ってもらい、仲良くなり、最後には「一緒に仕事をしよう」と言ってもらえるようになり、実際にそのような方々から抱えきれないくらいの仕事を振って頂きました。そのような尊敬できる方々と一緒に仕事をすることが、会計士としても人間としても自らを成長させてくれます。

監査法人を退職してからも、「会いたい人が地球上にいるならどこへでも会いに行く」ことにしています。それが最大の自己投資だと思っています。



■ 最初の2年で高いところまで登りつめること

これまで多くの尊敬できる公認会計士の諸先輩方と仕事をさせて頂きましたが、私にとって監査法人1年目にKマネージャーと仕事をさせて頂いたことが、最も私を成長させてくれたと思います。

このKマネージャーも、事務所で私から話しかけ、仕事を振って頂きました。入所して間もない時に、Kマネージャーは私にこんなことを言ってくれました。

「武田くん、会計士としてあと40年、50年と働くことになると思うけど、どういう成長曲線を描くと思う?」と。

私は答えられませんでした。

すると、Kマネージャーは、こんなことを言ってくれました。

「1年目と2年目に急激な成長を遂げて、3年目以降はなだらかな右肩上がりとなるんだよ。ほとんどの人がそうだ。だから、これから2年間の間に、どれだけ高い場所まで行けるかが勝負なんだよ。そこで付けた差は、30年後も40年後も埋まらないはずだよ」と。

私の会計士としての人生を振り返ると、Kマネージャーがおっしゃってくれた通りだと思います。どんな仕事を振られても、与えられた仕事を極める。上司の仕事を奪い取ってでも、仕事を早く覚える。監査法人から享受できるものは全て享受する。社内外で顔を売る。そしてまた新しい仕事を振ってもらう。そうやって1〜2年目に高い場所まで登りつめたような気がします。ファストキャリア、特に最初に2年が大切です。



私はこれまで、監査法人勤務、事業会社勤務を経て、コンサル会社を立ち上げ、さらに個人事務所として再独立し、独立後は決算早期化などのコンサルティングを中心に幅広い仕事をしてきました。そして、コロナ禍でセミリタイアし、沖縄に移住しました。会計士試験に合格したばかりの頃は、このような人生・キャリアになるとは全く思いませんでした。沖縄移住どころか、独立することすら考えたこともありませんでした。しかし、目の前の与えられた仕事をコツコツとやっていくことにより、それなりに成長し、「天職」が見つかり、振り返れば道が出来ていた、という感じです。

合格されたばかりの皆様は、まだ先のことは何も分からないと思いますが、それでいいと思います。逆に今の時点でキャリアを決めてしまわない方がいいと思います。「謙虚さ」を忘れず、自己投資を怠らず、与えられた仕事をコツコツこなすことが、成長と成功への近道です。



なお、公認会計士のキャリア形成については、公認会計士平林亮子さんと共著で書いた以下の本にも書いていますので、興味があれば手に取ってみてください。


公認会計士 「試験」「仕事」「キャリア」のすべてがわかる本
武田雄治、平林亮子
日本実業出版社
2023-11-17




まだお伝えしたいことはありますが、長文になってしまいましたので、これくらいにしておきます。質問・感想などあれば、ご連絡ください。

改めまして、合格者の皆様、この度はおめでとうございます。同じ会計士として、この素晴らしい業界を共に活気のあるものにしていきましょう。
#公認会計士論文式試験合格おめでとう