春学期の授業全14講のうち、今日で第13講目。
14講目は期末試験(授業内試験)なので、本日が最後の講義。
「最後の授業」といっても、NHKの「最後の講義」の福岡伸一先生のような講義はできん。いつも通り、学生からの質問のフィードバックから始めた。
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「知的生産」というものは、input (情報入手)→ throughput(情報処理)→ output(情報発信)を通して価値あるものを提供・発信していくことであるが、日本の教育はinput に偏りすぎており、throughput(自分の頭で考える)、output(自分の言葉で発言する)に重きを置いていないため、inputはほどほどにして、throughputとoutput に時間をかけるべきだ、という話を前回の授業で話した(詳しくはこちら)。
ざっくりいえば、自分の頭で考えるということが「思想する」ということであり、そこで自分なりの『解』を導いて、自分の言葉で発言するということが「哲学する」ということになる。人は誰でも思想家や哲学者になれる。ただし、「自分の頭で考える」ということをするならば。
この前回の講義での話に対して、ある学生から次のような質問を頂いた。
「throughputとoutput に時間をかけるべきだ、という話がありましたが、すぐに『解』を出さなければならない状況が多々存在すると思います。そのような時、先生はどのように思考を働かせていますか?」(商学部4年)
いい質問。結論からいえば、これは訓練しかない。普段からinputしかしていない人間、例えば大学受験に合格するための勉強しかしてこなかった人間や、就活のときに想定問答集のようなものを暗記しているような人間は、想定していない『問』に対して『解』を導くことができないため、「分かりません」というoutputをする。聞いている側からすれば、「分かりません」じゃなくて、自分の考えを言わんか! となる。普段からthroughputとoutput の訓練をしているなら、その場で考えて、outputすることはできる。仮にその場でoutputすることができなくても、一旦家に帰って、何度も自分の頭で考えて、自分なりの『解』を導くのだ。私も学生からの哲学的な鋭い質問に対して、鈍い回答しかできなかったことは何度もある。何度も反省している。しかし、それをそのままにすることはない。火曜日に沖縄に帰って、月曜日に西宮に戻ってくるまでの間、ノートに向き合って、その『問』に対して、考えて、考えて、考えて、自分なりの『解』をもう一度出すようにしている。そして、質問をくれた学生に再度フィードバックしてる。私の1週間はその繰り返しなのだ。というか、社会人になってからこの繰り返しなのだ。このような習慣(訓練)を行っていれば、「思考の引き出し」が増えていき、「なぜ生きるのか」「なぜ学ぶのか」といった哲学的な質問にも即答できるようになる。
学生の皆さんは、大学受験でも大学の授業でも、inputをし過ぎだと思う。ベストセラーになってる三宅香帆著『なぜ働いていると本が読めなくなるのか』 にも書かれているが、読書から得られる知識にはノイズが含まれる(偶然性がある)が、我々がネットから得ようとする情報はノイズを除去したものである。家に帰ってスマホばっかり眺めて時間は(必要な情報をinputしているのかもしれないが)「自分の頭を考える」ということをほとんどしていない。世界は自分には関係のないノイズや自分と異なる意見(異見)で溢れている。本を読むということはコスパ・タイパが悪いと感じるかもしれないが、月に1冊でも本を読み、ノイズを含んだ他者の文脈に触れ、読中・読後にノートに向き合うべきだと思う。非効率と思われるその時間が、自分の思想・哲学を作るから。
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という前置きからスタートして、これまで12回の講義の総まとめを行った。12回を通して「経理の本分」を伝えてきた。経理部は「情報製造業」から「情報サービス業」へと進化すべきであり、経営の中枢部門にならなければならない。そして、企業価値を高めなければならない。そのためには、簿記の知識だけでなく、幅広い開示の知識や、財務分析力や、深いファイナンスの知識も必要となる。それらすべてを大学4年間で学ぶことができないが、関心を広げてほしい。経理を変えれば会社は変わる。もし将来、経理の仕事に携わることがあれば、この授業を思い出してほしい。そして、会社を変える「強い経理部」を作ってほしい。
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授業の最後に、今日もゲストをお招きして、喋ってもらった。
平松ゼミの同級生であり、税理士である三宅由佳先生に来てもらった。ちょうど月曜3限に隣の人間福祉学部で授業を受け持っているので、ムリを言って少し早めに出てきてもらった。女子学生から「女性税理士の話も聴きたい」というリクエストがあったので。
三宅先生は、商学部の修士を修了し、人間福祉学部の博士を修了しているというすごい学歴なんだが、税理士登録後に上場企業経理部門、外資系コンサル、大手税理士法人勤務を経て独立し、いまは大学講師だけでなく、上場企業社外役員、社会福祉協議会理事なども携わっているという稀有なキャリアを持っている。自己紹介を聴くだけでも学生は頭を殴られたような気分だったのではないか。
人間福祉学部に自分がやりたい講義がないから、自ら提案を持っていき、返信がないから聴講生になって提案を続けて、2つの講義を開講させ、その講義をいま自分が担当しているという話は往復ビンタを喰らったに違いない。すごい原動力・行動力だ。目的を明確にし、その目的を果たすために、すべきことを考えて行動し、結果を出してきたという話は、多くの学生が「印象に残った」「かっこいい」「憧れだ」「偉大だ」「素敵」と言っていた。
今回の三宅さんのお話しは、女子学生のみならず男子学生も刺激になったはず。特に「女性税理士の話も聴きたい」とリクエストをくれた学生(税理士試験勉強中)は、授業後もノートとペンを持って三宅先生に色々と質問をしていた。相当モチベーションが上がったみたい。
三宅さん、忙しい中、ありがとう。感謝です。
最後の講義が終わった。
授業後の「ありがとうございました!」「履修してよかったです!」「秋学期も履修します!」という学生からのコメントが最高の報酬だ。昨年の秋学期に履修済みの学生は重複履修ができないのだが「聴講生として行きます!」と言ってくれる学生も複数人いた。単位が取れなくてもいいから履修させてほしいという学生が春学期にも複数人いたが、それこそ最高の報酬だよ。
1コマ100分という限られた時間で、喋れることも限られているが、やれることはやりきった。ステキな学生ともたくさん出会えたし、思い出もたくさん出来た。沖縄から毎週通って良かった。
I'm Proud.
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授業後、京都の顧問先へ。
会社で打ち合わせをした後、鮨屋で打ち合わせ。
もう5年も顧問をさせて頂き、私がいなくても強い経営ができるようになっているのだが、貪欲に私から色んなものを吸収しようとする。「月に一度食事をさせてほしい」という真面目な社長の思いと、「月に一度は京都で飲みたい」という私の不真面目な思いが合致したのか、月に一度食事をするようになった。もう60回くらい一緒に食事をしていることになるが、いまでも「武田先生と食事をする時間が一番楽しい」と言ってくれる。これも最高の報酬だよ。
今日も記憶に残る濃い1日だった。
仕事を引き受けた限り、常に「期待を超える」ということだけはこだわりたい。相手の期待をプラス1%やると「ありがとう」と言われる。マイナス1%だと信頼を失う。プラスマイナス1%の努力の差は、能力の問題ではなく、気持ちの問題。うまくいかないのは愛と感謝の欠如。「プラス100%」も頑張らなくていいが、「プラス1%」にこだわるべきだ。いつも「ありがとう」を頂けるように。