アメリカンビレッジの夜——基地の町・沖縄に生きる女たち
アケミ・ジョンソン
紀伊國屋書店
2021-08-31



2〜3日の旅をしただけでは気付かないことは多い。沖縄に住むようになってから、米軍基地のデカさと米軍関係者の多さに驚かせれた。私の住んでるマンションの傍にも基地があるが、基地の反対側に行くには車で10分以上かかる。

日本は世界のどの国よりも多くの米軍の構成員を受け入れており、日本政府は米軍基地の年間経費、数千億ドルを払い続けている(いわゆる「思いやり予算」)。国内にある基地の約70%が沖縄にあり、本島に米軍の構成員や家族約5万人が暮らしている。

終戦から1972年に日本へ復帰するまでの27年間、そして沖縄本土復帰から今日までの50年間、沖縄はアメリカに占領・統治され、基地が置かれ続けてきた。その間に、レイプ、殺害、事件、事故、騒音、爆音など、様々な問題が勃発し、「基地はいらない」「米軍出て行け」と叫ばれてきた。

しかし、私が初めて北谷町にある「アメリカンビレッジ」に行った時、兵士たちや日本人たちが海沿いの商業施設に集まり、バブル時代のディスコの如く盛り上がっていた。そこには「米軍出て行け」と叫ぶような人はいない。人種・国籍を超えて、ビール瓶を交わしている。日本にもこんな活気がある場所が残っていたのかと嬉しくなったものだ。

本書の著者(日系アメリカ人4世)も、アメリカの大学生だった時に初めて沖縄を訪れ、「アメリカンビレッジ」を通った時に、「これまで見たこともないアメリカを垣間見」、「私の頭から離れなくなった」(P17)という。再び沖縄に戻ってきた著者は、沖縄で暮らし、沖縄に生きる女性たちの話を聞き歩き、沖縄の政治・社会・歴史の真実を浮かび上がらせ、本書をまとめたのだ。『アメリカンビレッジの夜 —基地の町・沖縄に生きる女たち』というタイトルなので、沖縄の「部分」にフォーカスを当てた本だと勘違いしていたが、実は沖縄の「全体」をめちゃくちゃ奥深くまで掘り下げて書かれている。沖縄の過去・現在・未来を知るにはベストな一冊かもしれない。

これまで沖縄では残忍極まりない強姦事件はあったが、それ以上に恐ろしい殺人事件が報道されないこともある。レイプはもちろん犯罪だが、それを政治利用する者もいる(第1章参照)。沖縄には、アメリカ人を好む日本人女性(アメジョ)や黒人を好む日本人女性(コクジョ)も少なくないようで、彼らと付き合うために夜な夜なクラブに行ったりもする。米兵よりも、沖縄人女性が軽蔑されることもある(第2章参照)。報道だけでは分からないことが多いものだ。

衝撃を受けたのは沖縄戦についての記述の箇所。昨年4月に渡嘉敷島に行った時に、「なんでこんな島に集団自決の跡地が何ヶ所もあるんだろ??」と不思議に思ったのだが、その答えも本書に書かれていた(第4章参照)。沖縄の人たちは、子供の時から、アメリカ軍に捕まったら、服を剥ぎ取られ、強姦され、使い終わったら戦車で轢き殺される…というようなことを吹き込まれていたのだ。生き残ることは恐怖だという異常心理が渡嘉敷島の島民にも伝播し、アメリカ艦隊が近づいてくると、手榴弾を使って集団自決をする者や、石やカミソリなど身近な物を凶器として親や子を殴り殺す者が続出し、「地獄絵さながらの阿鼻地獄が展開していった」(P128)という。そして、島民の約半数が犠牲になった。生き残った人は当時を回顧する。「アメリカ人よりも日本人のほうが私どもにとって恐ろしい存在」だったと(P129)。実際に、日本兵は、沖縄人をよそ者とみなし、多くの沖縄人を殺害している(P41参照)。

多くの人が知らない沖縄の真実が淡々と400ページ以上にわたり語られている。初の著書とは思えない文章力・取材力。注釈・参考文献に挙げられている本の数もすごい。参考文献に含まれている本まで購入して、夢中で読み続けた。とにかくすごいノンフィクションだった。まるで小説のように読ませる翻訳家の力量もすごいと思う。今年読んだノンフィクションの中ではダントツNO.1。

樋口耕太郎著『沖縄から貧困がなくならない本当の理由』 (光文社新書)と共に、超オススメ!