発売日(2021/7/29)にkindleで読んだのだが、濃い内容なので、紙の本でも買って読み返した。kindleでは1日で読んだが、紙の本では1週間かけて熟読した。本書はじっくり読むに値する本かも。
本書の副題は、『才能ある者にとってはユートピア、それ以外にとってはディストピア』。
どういうことか。
これを書き始めたら1万字は必要になる。1週間はかかる。
結論からいえば、いまの社会で生きることは、「無理ゲー」(攻略が不可能なゲーム)を一人で攻略するようなものだという話し。かつて人と同じことをすることが評価される教育を受けてきた日本人は、いつしか「自分らしく生きる」ことが素晴らしいという価値観へ変わってきた(=リベラル化してきた)。しかし、「自分らしく生きる」という潮流は、他者とのつながりが希薄化し、人間関係が偏在化する(そして、友達が消滅する)。さらに、豊かさが経済格差を生み、人間関係の偏在化が性愛格差まで生み、「高所得/低所得」「モテ/非モテ」の分断がおきた。で、「上級国民/下流国民」というコトバまで生まれた。
本書で問うているのは、「自分らしく生きられない人は、どうやって生きたらいいのか?」、「努力しても頑張れない人は、どうやって生きたらいいのか?」である。
この問いに、著者は様々か角度からファクトを引っ張って論じており、一つ一つを紹介したいくらい面白いのだが、それをするとホントに1万文字が必要になるから、本書で確認して欲しい。ちなみに、個人的に引き込まれたのは、(橘玲氏の他の著書でも書かれているが)才能は遺伝するという話と(第4章)、ヒトの欲望は止められない(=脱成長はできない)という話(第7章)。
「自分らしく生きる」という欲望は止められないから、「はけ口」として、資本主義への批判が語られたり、格差の批判になったり、「誰でもいいから殺したい」という凶悪犯罪が生まれたりする。本書を読んでいる時にも、小田急線の車内で男が乗客10人を刺すという事件が起こった。36歳・独身・職業不詳のこの男は「幸せな女性を見ると殺してやりたいと思っていた」などと供述していた。
「自分らしく生きる」という欲望が、生きづらさを増していくという「無理ゲー」を生んでいる。絶望する若者が生まれるのも無理はない。ますます人間関係が希薄化する時代にどうやって生き延びていくべきだろうか。あれこれ考えされられる。