日経新聞(2021/5/1)の読書欄で紹介されていたのを見て即購入。
まだ5歳の子供がいるシングルマザーが、アフリカ・ルワンダに行って未経験の飲食店を開業するという奮闘記・・・って、めっちゃ面白そうやん! って思って読み始めたけど、やっぱり面白かった。ありえないようなトラブルやパプニングが続くという話が書かれていることは想定どおりだったが、想定を超えていた。怒り狂いそうな話を、よくこれだけ笑い話として書けるもんだ。著者のメンタルの強さと文章力はすごい。
移住・起業の奮闘記だけでなく、1994年に発生したルワンダ大虐殺(ジェノサイド)や、貧困問題、子育て環境、日本との文化の違い・・・などについても、行間で、時には真正面から書いてくれている。ルワンダは、「アフリカの奇跡」といわれる位の高い成長率を維持して発展してきた。しかし、裏路地に一歩はいると様相が変わり、別世界となるらしい。1日200円以下で暮らす貧困者が人口の半分以上。まだまだ貧しい国なのだ。
そして、25年前におこったルワンダ大虐殺(50万人〜100万人、人口の1〜2割が犠牲になった)の影響がいまも残っている。著者の店で働くイノセントさんの話が読後も心に残る。25年前は3歳だった彼は、大虐殺で両親を失い、ストリート・チルドレンとなった(だから自分の正確な誕生日すら知らないという)。当時、孤児になった子供は10万人。多くのストリート・チルドレンが、路上で死んだり、犯罪に手を染めたりした。薬物中毒者、アルコール中毒になる子供も多かったらしい。学校に通えない、身寄りもない、おうちもない中で、イノセントさんは大人になったが、日本人の子供のような教育を受けていないのだ。著者は最初、イノセントさんがストリート・チルドレンだったことを知らず、物覚えが悪く、行動が遅い彼に怒りや苛立ちを覚えたという。しかし、イノセントさんは言う。” slowly, but I am learning "(行動は遅いけど、学んでるんだ)。著者は、彼らの言動が、その国の背景、彼らの生い立ち、人生観から紡ぎ出されていることを知るのだ。人を理解するということは容易いことではない。
住環境も悪く、救急車もすぐに来てくれない。そんな中、身近な人が死んでいくことも珍しくない。身内を亡くしたスタッフが、”That's life!”(それも人生だ)といって仕事に復帰してきたという話も心に残る。それは、どんな辛いことがあっても、前を向き、乗り越えていく彼らの強さともいえるが、それ以外に選択肢がないという残酷な現実の裏返しでもある。どんなに辛くても、苦しくても、生きていかなければならない現実。
しかし、そこに希望がない訳ではない。ルワンダでも新型コロナでロックダウンになり、店は一時期破滅的だった。その時に、上述のイノセントさんが、著者に"Everything will be alright!"(きっと、大丈夫)と声をかけてくれたという。何もかもが思い通りにならず、赤字が続き、店をたたむことを決意したが、そんな時に支えてくれたのは、行動が遅くて苛立っていたインセントさんなどのスタッフだった。泣ける。。。
久しぶりにビジネス書を読んで震えた。いや、この本はビジネス書ではない。アフリカへ行こうとか、起業しようとかいう本でもない。リクルートという大企業で働きながらも、他人の価値観で生きることに疑問を持ち、「自分らしさ」を求め、人生という旅に出てた著者が、人生の醍醐味を教えてくれる本だと思う。
あまりにも良い本だと思ったので、twitter上で著者の唐渡さんと直接やり取りをさせて頂いたが、唐渡さんは本書を「自分の中では『冒険記』が近いです」とコメントをくれた。なるほど『冒険記』か。人生は冒険だね。それにしても、とんでもない冒険をされたもんだ。感服する。
今でも毎週タイ料理を食べるほどタイ料理が好きなので、いつか唐渡さんのお店 "Asian Kitchen" に行ってみたい。誰かルワンダまでついてきてくれるかな…。
(※ 画像はgoogle mapから拝借した)