私が起業したのは10年前のこと。

それまでの東京で生活していた私が、地元関西に戻ってコンサル会社を立ち上げた。
しかし、周りに知り合いはいない。
目標にするような同業者もいない。
そもそも、経営ってものをしたこともない。

きちんとしたビジネスモデルがあるわけでもない。
戦略があるわけでもない。
事業計画があるわけでもない。
プレゼン資料もない。
それ以前に、営業ってものをした経験が一度もない。

それなりの想いがあって起業したわけだが、
地元に戻ってきても、
『何もない』。

会計士だからといって、起業したら成功するなんて甘いもんじゃない。
資格を持っていたって、お客様がいなければ飯は食えない。
収入ゼロ。

周りに聞ける人がいなければ、本を読むしかない。



起業してから3年間で買った本は(数えたことないけど)1000冊は超える。
そのうち、今でも残っている本は20〜30冊程度だが、当時は「すぐに役に立たなくなる情報」であっても、とにかく吸収した。それしか自分を助けてくれるものはなかったから。

最も熟読したのはマーケティングの本。
神田昌典さんの本には随分と助けられた。

経営者の本もよく読んだ。
北尾吉孝さんの本からは、経営をする上で大切なことを教わった。
北尾さんのセミナー・講演があると、遠くても、高くても、足を運んだ。
市販されている北尾さんの音声はすべて買って、iPhoneに入れている。
今でも聴き返す。
私の、経営と精神の支柱を築いてくれたのは北尾さんだ。

北尾さんは、大切なことは「不易」(=変わらない)ということも教えてくれた。
「利の元は義」「顧客中心主義」「仕組みの差別化」ということも教えてくれた。
経営者は倫理的価値観を持つことが最も重要であるということも教えてくれた。
東洋思想を勉強するきっかけとなったのも北尾さんだ。

起業して3年間、北尾さんの本にかかれているように「顧客中心主義」による「仕組み」を作っていき、差別化を図り、経営する上での自分なりの「原理原則」を作った。これは、「不易」であり、今でも活かされている。そして、神田昌典さんの本に書かれているマーケティング手法をなぞるように実践した。
自分でいうのもナンだが、業界の中で圧倒的な差別化を図ったと思う。
上辺だけマネされることはあるが、本質をパクられることはない。



この3年間は、人生の中の本当に泥臭い期間だった。

起業なんて、美しいものでもない。
世界を、社会を、変えたい、という想いをカタチにするという地道な作業だ。

起業なんて、中途半端な気持ちでやるもんじゃないし、仲間とやるもんでもない。
覚悟を決めて、自分の人生を賭けてやるもんだと思う。

起業したら、公私は必ず混同する。色んなものを犠牲にする。そして失う。
それに躊躇するなら、もしくは安定を望むのなら、起業すべきではない。

起業してしばらくの間は、ワーク・ライフ・バランスなんてない。
仕事と人生の使命感の同一化が必要だ。

こんなことは、起業の経験をし、地をはうような努力をした人間にしか分かるまい。

もう一度言う。

こんなことは、起業の経験をし、地をはうような努力をした人間にしか分かるまい。



サルトルではないが、最近、吐き気がする。
起業支援という名のオレオレ詐欺が横行しているが、誰も詐欺だと言わない。

先日、ある起業支援者(お役所の外輪団体?)主催のイベントに参加した。
興味なかったが、諸事情により。

登壇者の一人が、「起業のエコシステムを作らなければ・・・」など意味不明なことを曰わっていた。
別の登壇者は、シンガポールに在住していたことを自慢気に話している。
また別の登壇者は、VCを組成したとか何とか言っている。

「だから何なの?」
というような中身の無い話を、イベントに参加している起業家たちはフムフムと頷いていて聴いている。
質疑応答が長時間に及び、名刺交換に長蛇の列が出来る。
なんだこの世界。
目眩と吐き気がした。



起業したい人たちは、そんなハイエナを相手にする時間があれば、会社を作ればいい。
そして、まずは一人、お客様を見付けるべきだ。
お客様の期待を超える商品を作り、サービスを提供するべきだ。

「顧客中心主義」を貫き、顧客の意見を聞きながら改良を重ねること。
その繰り返しの中から、「仕組みの差別化」を図ること。
そのためには、自分とひたすら格闘するしかない。
地をはうような努力をするしかない。

そこをすっ飛ばして、世界を、社会を、変えるなんてことはできない。


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