「学力」の経済学
中室 牧子
ディスカヴァー・トゥエンティワン
2015-06-18



これは良書!
面白い!

日本の教育政策を論ずる会議の場では、およそ教育の専門家といえない人までもが、「私の経験によると・・・だった」と、自分の経験をもとに、主観的な持論を展開しているようです(P17〜)。

本来政策とは、統計データなどの科学的根拠(エビデンス)に基づいて決定されるものであるが、日本の教育政策はエビデンスを軽視してきた。

著者の中室牧子さんは「教育経済学」が専門の学者さん。
「教育経済学」とは、教育政策の費用対効果を統計的に分析・評価するという学問というようです。

本書では、
 ●子どもを勉強させるために、ご褒美で釣るのは効果があるのか?
 ●子どもに「やればできる!」と自尊心を高めることは、効果があるのか?
 ●子どもに「よく頑張ったね」と努力を褒めることは、効果があるのか?
 ●ゲームやテレビは子どもに悪影響を及ぼすのか?
 ●親が「勉強しなさい」というのは、効果があるのか?
 ●子どもへの教育投資は何歳からすべきなのか?
 ●少人数学級に効果はあるのか?

といったことが科学的根拠(エビデンス)を元に論じられています。

例えば、「少人数学級」や「子ども手当」といった教育政策は、学力を上げるという目標に対して費用対効果が低い効果が無いということが明らかになっているのですが、日本の教育政策はこういったエビデンスがスルーされているようです。



私の周りにはそこそこ所得層が高い人が住んでおり、やらたらと医者や弁護士が多いということもあるのか、子どもを小さい時から進学塾に入れ、友達と遊ぶ時間もろくに与えず、ガリ勉教育をしている親御さんが結構います。個人的な感情としてそのような教育方針は理解に苦しみますが、親御さんにとっては子どもに跡を継がせるために必死なのでしょう。

本書はそういうった「かかあ天下」の「ガリ勉教育」に対しても、科学的根拠をもってその効果を示しています。

子どもの教育とは、IQや学力テストの成績を上げることだけではない。忍耐力とか、社会性とか、意欲とか、創造性とか、計測できない能力(これを「非認知能力」というらしい)が大切であり、これらも将来形成に大きな影響を与えていると。 そして、学力テストの点数を上げるために、部活や生徒会などを止めさせたりすることは慎重であるべきだと。長い目で見た時に、子どもから「非認知能力」を培う機会を奪ってしまうことになりかねないからです。(第3章参照)



教員の「質」が低いという話は、このブログでも散々してきたかと思いますが、著者も教員の「数」を増加させるより、教員の「質」を高める政策を取るべきで、さらに能力の高い人に教員になってもらうために、教員になるための参入障壁をなるべく低くする(=教員免許制度をなくしてしまう)という政策を提言されています。(第5章参照)
これは、激しく同意。



他にも色々と考えさせられた一冊でした。
子どもに指導する立場の方にはオススメします。



【関連図書】
池上彰著 「池上彰の『日本の教育』がよくわかる本」
土井隆義著 「友だち地獄―『空気を読む』世代のサバイバル
森信三著 「母親のための人間学」「父親のための人間学」
伊藤氏貴著 「奇跡の教室  エチ先生と『銀の匙』の子どもたち」