宗教を信じる必要はないが、その歴史や世界観についての大雑把な知識はもっていたほうがいい。(はじめにより)

そう思う方のための宗教ガイド。

宗教を信じない人にとっては、宗教を信じる人の信仰心や、儀礼、戒律といったものが理解出来ないこともあります。

本書の特徴は、「宗教」をユダヤ教、キリスト教、イスラム教、仏教・・・と「縦串」を指して説明しているだけなく、「濃い宗教」(=信仰という形で個人が深く思い入れるレベルの宗教)と「薄い宗教」(=文化としての宗教)という具合に「横串」を指して説明している点にあるでしょう。この切り口は斬新です。

例えば、欧米人の他半数はクリスチャンという建前であるが、皆が神と出会うといった濃い体験をしているわけではない。「せいぜいが神頼み」(P15)というレベルです。

そのため、著者は信仰について、次のように述べています。

「神仏が果たして存在するかどうか」などといったことは、この場合、二の次三の次の問題だということである。そんな哲学的存在論などというのは、信者にとってどうでもいいのだ。

大事なのは、信者であるとないとによらず、我々人間が、常に何か「希望」をもって、つまり、何か自分の支えとなるものを信じて生きているという、平凡な事実だ。あるいは、愛する者たちと同じ空間を共有していることを心の支えとして生きているという、平凡な事実だ。
(P55〜)

私は、宗教に「横串」を指したこの切り口の説明によって、初めて「宗教」というものを深く納得できたような気がします。著者は、宗教を考える上で、意外に大事なのは、「深い信仰ではなく、浅い文化的習慣だ」(P15)といいます。我々日本人が御礼をする時にお辞儀をするように、礼拝したり断食したりという儀礼を行う宗派があるということです。文化的習慣としての視点で宗教を見ると、理解が出来ない、もしくは不合理だと思うような宗教の見方も少しは変わってきました。


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