海からの贈物 (新潮文庫)海からの贈物 (新潮文庫)
著者:アン・モロウ・リンドバーグ
販売元:新潮社
(1967-07)
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先日、学生時代からの親友と久しぶりに食事に行った。親友なのに久しぶり。なんか日々忙しくしていると勘違いされている。明らかにその友達の方が忙しいのだが。

「公認会計士の仕事」という本には書いたが、監査法人勤務時代は相当働き、寝食忘れず働いて24時間チャージしたこともあったし、仕事中に「日の出」を見ることも多かった。体力があったので、そういう働き方は平気だったのだ。しかし、最近はそういう働き方は持続しない。睡眠不足だと思考も鈍る。仕事は「のんびり」、休みは「ぼんやり」というスタイルが自分には合っているように思うようになってきた。



アン・モロウ・リンドバーグ(1906-2001)の『海からの贈物』(新潮文庫)という本は、130ページもない薄っぺらい本であるが、内容はとても濃い本であり、「のんびり」「ぼんやり」生きていく私に多くのことを教えてくれた一冊である。

アン・モロウ・リンドバーグは、大西洋横断飛行に最初に成功したリンドバーグ大佐の夫人。ニューヨークの家族としばらく別れて、ある島の海辺の別荘での独り暮らしの時間に、自分自身に語りかける形で書き留めたものがこの『海からの贈物』という本。



この別荘近くの浜辺には、美しい貝が一面に散らばっている。
この島に来たての頃、その美しい貝を、服のポケットというポケットが伸びきった上に、びしょ濡れになるほどに拾っていた。

この時を振り返り、リンドバーグはこう書いている。
『足元に気を取られて、顔を上げて海を眺める暇もなかった。蒐集家(しゅうしゅうか)というものは、大概のものに対して目隠しされているようなもので、自分が探しているものの他は何も見えない。
(中略)
浜辺中の美しい貝をすべて集めることはできない。少ししか集められなくて、そして少しのほうがもっと美しく見える。

この文章は、大げさかもしれないが、仕事をする上で、生活する上で、非常に大切なことを教えてくれたと思う。



また、リンドバーグは、感情の付き合い方、特に人間的な関係を潮の満ち干きに例えて次のように書いている。
『我々は潮が満ちて来ると、それに飛び付き、引き始めると慌ててそれに反抗して、潮が二度と満ちて来ないことを恐れる。
(中略)
人間的な関係の保証は昔に郷愁を覚えて振り返ってみたり、未来に恐怖を感じたり、期待をかけたりすることにはなくて、それは現在に生き、現在の状態をそのまま受け入れることにしかない。』

至言です。



最後にもう一つ。リンドバーグは独りでいることの大切さも教えてくれた。
『我々は一人でいる時というのは、我々の一生のうちで極めて重要な役割を果すものなのである。ある種の力は、我々が一人でいる時だけにしか湧いて来ないものであって、芸術家は創造するために、文筆家は考えを練るために、音楽家は作曲するために、そして聖者は祈るために一人にならなければならない。』

毎日せわしなく時間が過ぎていくが、少しでも自分独りの時間というものを持たなければならない、とも述べている。それは「少しでも自分の内部に注意を向ける時間があることが大切」だからである。



美しい貝の所有欲と、美しい貝を本当に美しいと思うことは両立しない。人生は振り子のようなものであり、潮の満ち干きのようなものである。その中で本当に美しい貝を探していきたい。私の考える、のんびり、ほんやりとは、そういう意味である。



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