hiroshima

早いもので、広島での授業も今日が最後。
このキャンパスに来るのも今日が最後。



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そして、この控室に来るのも今日が最後。
授業が始まる前に、一杯の珈琲を飲みながら、ぼんやり過ごした場所。


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授業は全15コマだが、今期からクオータ制(4期制)になったため、1日2コマ(90分✕2)を連続で実施することになった。1日3時間も授業を聴く学生達も大変だったと思うが、あっという間に14コマが終了。今日は残り1コマの「最後の授業」のあと、期末試験を実施する。

『監査論』という授業を担当したが、会計や監査を専攻する学部でもないし、公認会計士を志す学生が何人もいる訳ではない。なので、『監査論』の制度的・理論的なことを細かく教えても面白くないし、誰もそんなことを期待していない。学生達にとっては現役公認会計士と「対話」ができるまたとないチャンスであるから、一方的に知識を与える授業ではなく、できるだけ実務的な話(というか、雑談…)をしつつ、学生達と「対話」をする時間を持つようにした。「手を挙げろ」と言っても、手を挙げない学生が多いのは容易に想像がつくので、毎回全員にレポートを提出させ、そこに自由に意見、感想、質問、要望を書いてもらったら、全員がゴリゴリに書いてくれた。そうやってて「対話」する術は、YouTube Liveで学んだ。


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さて、「最後の授業」
今日は「対話」をするだけでなく、最後に、これから社会に出る学生達に私から2つのメッセージを伝えた。
(これは、私が、若い会計士にも常に言い続けていることでもある。)

まず、1つ目は、「行き急ぐな」
人生はいつ終わるか分からないため、いまを大切に生きるべきだし、何でも直ぐにやるべきだと思う。しかし、多くの人は100歳近くまで生きるだろうし、社会人生活を40年、50年と送るだろう。そうした中で、短期的利益を追い求めるようなことはすべきではない。「1万時間の法則」のとおり、プロフェッショナル、エキスパート、天才といわれる人達は、1万時間に及ぶたゆまぬ努力をしてきた人だ。1万時間といえば、1日3時間の勉強を休まずしたとしても10年かかる。何事もコツコツとやることが、大きな目標を達成するための唯一で最短の方法であるということを忘れないで欲しい。継続したものしか残らない。継続できないものは残らない。

2つ目は、「隣の芝を見るな」
隣の芝は青く見える。特にSNS等を見ると、そこに映る人は華やかに見えると思う。しかし、華やかに見える人の多くは、その裏でどれだけの努力をしてきたか、どれだけの苦難を乗り越えてきたか、どれだけのコンプレックスを抱えているか。表層的な華やかだけで他人を判断すべきではない。キャリアとは、隣の芝に飛び込むことではない。自分の芝に深く根を張っていくことなのだ。

ある大学の生物学者の実験の話。広さ30cm四方、深さ56cmの砂が入った小さな木の箱に、1本のライ麦の苗を植え、4ヶ月あまり水をやって育てる。するとライ麦は貧弱な姿であるが、その木の箱で育っていく。木の箱を壊して、砂の中にどれほどの麦の根が伸び広がっているかを計測すると、なんと11.2kmに達していたという。これは、五木寛之さんの『人生の目的』に書かれていた話である。私もかつて、西宮の山の上に住んで、数年間、庭いじりをしていたので、「根が深い」というのを見てきた。小さな木がどんな強風にさらされても折れないのは、見えないところでとんでもなく根を張っているからなのだ。

大した根も張らず、隣の芝にぴょんぴょんとバッタのように飛んでいく生活をしていたら、ちょっと強風が吹いただけで吹き飛ばされるだろう。社会人になったら、隣の芝を見ず、根を深く伸ばしていくような生き方をして欲しい。

成功とは
(※画像はネットから拝借した)


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「最後の授業」が終わり、期末試験。
私がそのまま試験監督も務めた。制限時間90分。
知識を問うような問題ではなく、思考力を問うような問題を出題したが、15コマの授業を思い出しながらド真剣に答案用紙に向き合う全学生を見ていると、不思議と愛おしく感じてきた。と同時に、最後までドロップアウトすることなく全授業を受講し、色んなことを考えてくれ、レポートや授業の発言を通してアウトプットしてくれた学生達に「ありがとう」という感謝の気持ちが溢れてきた。

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試験は出来た人から途中退出していいことにしていた。試験開始30分後くらいからポツポツと答案を提出し、途中退出する学生が出てきた。学生も私が本校に来るのが最後ということを知っている。中には目を見て、感謝を伝えてくれる学生もいた。答案用紙の末尾に、感謝の言葉を書いてくれていた学生もいた。90分を待たずして、すべての学生が答案を提出し、私の仕事は終わった。私もまた、少し根を伸ばすことができた。

帰ろうとしたら、ひとりの男子学生が私のところへやってきた。「出待ち」してくれていたのだ。「他の人がいると恥ずかしいから待ってました」と。私は笑顔で受け入れたが、彼は少し緊張した面持ちだった。そして、ピーンと背筋を伸ばし、ひとつ深呼吸し、「先生の授業、とても良かったです」、「就活中に自分が何をしたいのか、考えるキッカケになりました」、「人生観変わりました」、「このご縁を大切にしたいと思っています」、「また会いたいです」、「この後は予定あるのですか?」、「また広島に来てください」…と、勇気を振り絞ってくれたのだろう、想いを伝えてくれた。感激の瞬間だった。「あいにく、今日はこの後すぐに東京に行かなければならないんだけど、もちろん、また会おう、また来るよ、いつでも連絡してきてよ」と伝えて、お別れした。

短い期間ではあったが、この学校で教える機会を頂けて、ホントに良かった。
記憶に残る2年間であった。
感謝。


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教室の中は熱気があれど、外を出れば冷たい風が吹いている。
そして、ベルトコンベアで運ばれるように、次の授業の講師が教室に流れていき、授業が始まるチャイムが鳴る。大量の授業が行われる中、私の授業が学生達にinspiration と awarenessを与えることができただろうか。



あなごめし


広島駅で、広島名物「あなごめし」を購入し、東京へ向かう。



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お疲れ様!
カンパーイ!!
受講してくれた学生達、大学職員の皆様、どうもありがとう!!

東京のホテルでPCを開くと、出待ちしてくれた学生から御礼のメールが届いていた。熱い学生がいることも嬉しい。K君、また会おう。あの焼肉屋で。