新書売上No.1の講談社現代新書が、「講談社現代新書100(ハンドレッド)」という新ブランドを立ち上げた。今こそ読まれるべき思想家を取り上げ、本文100ページでコンパクトにまとめた「一気に読める教養新書」というコンセプト。

第1弾は、『ハンナ・アレント』『ショーペンハウアー』の2タイトルが創刊された。両者とも私の好きな思想家・哲学者。まずは『ショーペンハウアー』から読んだ。

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かつて、学生の必読書は「デカンショ」(デカルト(1596〜1650)、カント(1724-1804)、ショーペンハウアー(1788-1860)の3名の頭文字)と言われたが、いずれも難解な本が多いので、そのエッセンスを100ページにまとめてくれたのは有り難い。

ショーペンハウアーは、「生きることは苦しみである」と断言した哲学者であり、そのペシミズム(悲観主義、厭世主義)的な考えが私は好きで、これまでショーペンハウアーの本を何冊か読んできた。

ショーペンハウアーは、「生きようとする意志」が、良くも悪くも全てを支配しており、生きる苦しみの源泉であると考えている。知性は苦しみを救わず、その「生きようとする意志」に従う。そのため、自由とは「生きようとする意志」から解脱することなのだ。つまり、ショーペンハウアーは「意志の否定」(=徹底的な欲望の否定)を根本に置いている。なんとなくこれは、最近の「脱成長」の議論にも通じるような気がする。際限ない欲望や成長が苦しみを増やしているのではないか。

本書は、ショーペンハウアーがこのように近代市民の生き方を否定し、欲望から自由を求める哲学者になった「原体験」についても解説してくれている(P24〜)。少年時代に、ヨーロッパ各地を家族旅行した際に、公開処刑の場や、鎖につながれ強制労働させられる奴隷を見てしまい、それを日記に事細かく書き記していたらしい。「無限の苦しみ」から永遠に逃れられない奴隷を目の当たりにして、「生の悲惨さ」を思い知るのだ。

そんな悲惨な境遇にいる者に、手を差し伸べず、自分には関係ないという顔をして生きる者こそ、エゴイスティックな欲望の囚人であり、悲しく惨めな者だというようなことも手記に書いている。

このように徹底して「意志の否定」をしてきた哲学者だからこそ、晩年、『幸福について』をまとめ、多くの人が救われたのではないだろうか。

なお、『幸福について』は複数の出版社から出ているが、新潮文庫の橋本訳はさっぱり読む気になれなかった。光文社古典新訳文庫の鈴木訳の方が読みやすい。一番読みやすいのは、白水Uブックスの金森訳。なぜか金森訳は『孤独と人生』というタイトルだが、中身は『幸福について』と同じ。

なお、同じ白水Uブックスの金森訳の『存在と苦悩 』という本もオススメ。こちらは、おそらく、晩年にショーペンハウアーが書いた文章の寄せ集めかと思われる。


存在と苦悩 (白水Uブックス)
アルトゥール・ショーペンハウアー
白水社
2014-10-30