2030年:すべてが「加速」する世界に備えよ (NewsPicksパブリッシング)
スティーブン・コトラー
ニューズピックス
2020-12-22



本好きの友達から「めちゃめちゃ面白かった」と強く薦められた一冊。

確かに、めちゃくちゃ面白かった。約450ページの分厚い本だが、読みだしたら止まらなかった。

「2030年」(あと8年後)で生活もビジネスも根底から変化する。そして、その変化は加速する。それを、膨大なエビデンスを元に未来を予測・解説してくれている。

まず、第1部では、AI、ロボット、ドローン、VR(仮想現実)、AR(拡張現実)、ブロックチェーン、デジタル通貨、量子コンピューター、バイオテクノロジー、遺伝子治療等のテクノロジーの変化が加速し、それに伴い、あらゆるスピードが加速し、コストが下がり、80億人の全人類がネットワークにつながり、新しいビジネスモデルが誕生する・・・といった副次的効果も生まれることについて述べている。

そして、人間も進化する。寿命を伸ばすことも、記憶能力を増強させることも、脳をインプラントすることも可能となり、完全なサイボーグを作り上げることも可能となる(第4章参照)。

第2部では、これらの進化が、我々の日々の生活にも大きな影響を及ぼすことについて述べている。「買い物」が、AI・センサー・ネットと結びつき、欲しいものが直ぐ自宅に届くようになれば、わざわざ出かけるだけの価値がない店・モールは終わりを迎えるだろうという話は興味深い。大半の小売業が潰れるのではないか。大型化している小売店は、買い物する場所でなく、エクスペリエンス(経験)を提供する場になるという考察は面白い。

本書で最も興味があったのは、未来の「教育」が変わるという話(第8章)。

アメリカでは、年間120万人(1日7000人)もの高校生が中退している。中退の最大の理由は「退屈だから」を挙げている。画一的な授業とテストにより「子供たちをバッチ処理するというのは工業化時代の名残であり、教育的には大失敗」なのに、今も続けられている。

では、どうしたらいいのか。2012年、MITの研究者がエチオピアの僻地に、まとまった数のソーラー充電装置とタブレット端末を置いてきた。タブレットには初歩的な学習ゲーム、映画、本などが予め入っていて、その状態で箱に梱包されていた。それを、読み書きもできずハイテク製品など見たこともない子供たちに手渡した。そして何の指示もせず、彼らがどういう行動をするのかを観察したのだ。

当初、研究者は「子供たちは箱で遊ぶんじゃないか」と思っていたらしい。しかし、4分もしないうちに、一人が箱を開け、電源を入れた。5日後には1日平均47個のアプリを使うようになり、5ヶ月後にはアンドロイドのオペレーティングシステムをハッキングしたのだ。

これは私も驚いた、文字が読めないことは、コンピューター・リテラシーを身に付ける障害にはならないのだ。この実験は、子供たちには、大人が驚くようなクリエイティビティ、探究心、発見能力を持っていることを示している。我々が不要になったタブレットを、教育を受けることが出来ず、文字を読むこともできない子供たちに提供することができたら、数億人の若い頭脳を活かすことができるのではないか。さらには、アメリカでは160万人、世界では6900万人といわれる教師不足の問題も解消できるかもしれない。

もちろん、使用済みタブレットを提供すれば教育問題の全てが解決出来る訳ではないが、AI、ARの技術も組み合わせれば、子供たちの個々の個性に合わせ、彼らを夢中にさせ、最大の学習効果を発揮させるような教育システムと学習環境ができる(本書には書かれていないが、このような学習環境が整えば、学校なんていらないのではないだろうか)。

そして、最後の第3部では、エネルギーと環境について考察している。この問題は、全地球人にとって最大の課題であるが、テクノロジーが全てを解決するといったユートピアではなく、厳しい現実に直面しなければならないことが述べられている。具体的には、「気候が変動すれば人間も変わらざるを得ない」ということだ。いつまでも気温40度の国に住み続けることなんてできない。今後、気候変動により7億人が、それ以外の要因も加えると25億人が移動するという「史上最大の人口移動」が行われる(第14章参照)。抗えば、東京も大阪など主要都市は水没する(という話は『地球に住めなくなる日』という本にも書かれている)。そうなれば、「最も手っ取り早い移動手段は徒歩ではなく泳ぎになる」。どう備えるべきかは考えておかなければならないだろう。


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