Hug


最近ご縁があって数名の起業家のコンサルティングを行っている。

長年医療に従事をしていた女性が、「タッチケア」に関するビジネスシナリオを描いており、その内容にとても共感している。「タッチケア」とは、赤ちゃんを見つめ、触れ、撫で、語りかけること。「タッチケア」をすることにより、親子の結びつきを強め、赤ちゃんの発達を促すことができる。また、赤ちゃんの情緒が安定し、ストレスホルモンが減少するともいわれている。

本来、この「タッチケア」の対象は赤ちゃんであるが、赤ちゃんに限る必要はない。いま、人と人が触れ合うことがなさすぎる。親子、夫婦、恋人、友達など、誰かの肌に最近触れただろうか。この女性経営者曰く、人との触れ合いが少なすぎることが(我が国で特に多い)ストレス、鬱、孤独、自殺、認知症などの病気の原因の一つになっているだろうという。私もそう思う。

実際に肌に触れなくてもいいのだ。会社の同僚や街中を歩く人の肌に触れたら、捕まるかもしれない。ただ、海外で仲の良い人同士が握手やハグをするように、スキンシップを取ることは大切なことだと思う。私のHPの写真を撮ってくれているカメラマンの石田さんは、「ハグフォト」(商標登録済)というイベントを定期開催している。家族、親子、大切な人と笑顔でハグしている写真をプロのカメラマンが撮影するというイベントだが、これが好評らしい。大切な人に感謝を伝えることもない人達が、(イベント上とはいえ)ハグをして、肌に触れ、撫でるだけで、不思議と気持ちが相手に伝わるのだ。険悪な関係が氷解することもあるだろうし、その体験により相手への理解や愛が深まることもあるだろう。そして自分自身の幸福度が上がる。触れることには、人間関係を変える効果があるのだ。

70万部超えのベストセラーとなった『スマホ脳』の著者による最新作『ストレス脳』という本に面白いことが書いてあった。チンパンジーやゴリラは、起きている時間の20%を、お互いのグルーミング(毛づくろい)をして過ごしている。このグルーミングは、毛や身体を清潔に保つために行うと言われているが、それだけであれば起きてる時間の5分の1も費やすことの説明がつかない。実は、このグルーミングによってエンドルフィンが放出され、お互いの親密な関係を生み出しているのだ。さらに、群れの中で色々な仲間の毛づくろいをすることで、群れ全体のまとまりが保たれるという。ヒトは、チンパンジーやボノボと同じ属の「第三のチンパンジー」であるため、ヒトにもグルーミングの効果はあるはずだ。ちなみに、この効果は、肌に触れることで起こり、画面越しでは起こらない。オンラインでエンドルフィンが放出されることはないだろうし、ストレス、孤独、鬱が解消されることもないだろう(逆に私はストレスでしかない)。

話を戻すと、上述の女性経営者が事業化しようとしている「タッチケア」は、いまの社会に求められていることだと感じるし、あらゆる社会的問題を根本から解決する大きなビジネスになるような気がする。キチンとシナリオを描いて、ビジネスモデルを組み立て、収益化するまで支えたいと思う。


ストレス脳(新潮新書)
アンデシュ・ハンセン
新潮社
2022-07-19


(※ 冒頭の画像はネットから拝借した)