Dark Horse 「好きなことだけで生きる人」が成功する時代 (三笠書房 電子書籍)
トッド・ローズ、オギ・オーガス
三笠書房
2021-08-20



ハーバードの個性学入門』という非常に面白い本があるのだが、この本の著者が新しい本を出した。タイトルは『Dark Horse』(ダークホース)。「好きなことだけで生きる人」と訳されている。



原則や法則って永遠不滅なものだけど、いわゆる「成功法則」って賞味期限切れじゃないか?

だって、富や地位や名誉があることが成功じゃないよね?

他人より優れてるかってことより、自分の個性を活かし、個人の才能を開花させ、「充足感」があることのほうが成功じゃねーか!?

っていう内容。

キーワードは「充足感」(fulfillment)

「好きなことだけで生きる人」の共通項を調査・研究したら、その結論は、「充足感」の追求だったという(P39)。

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確かに、高度経済成長時代(本書では「標準化時代」と呼んでいる)は、「出世の階段」が用意されており、その階段を登り、富と地位を獲得することが成功だった(P30参照)。しかし、今はその前提は崩壊している。定年まで働けるという保障はない。年収が上がり続けるという保障もない。退職金や年金がもらえるかどうかも分からない。そもそも、会社が存続するのかどうかも分からない。実際に、滅私奉公で仕事に人生を注いできたにもかかわらず、不幸な人生を送っている人が周りにどれだけいることか。

今は、何かを犠牲にしたり、我慢をしたりしながら、将来の見返りを求めるようなことは(きっと)誰もしない。今の人達が求めるのは、将来の成功ではなく、今の「充足感」であり、その追求が自らを成功に導くことになる(P37〜参照)。

ここまでは、ふむふむと納得できる話だと思う。

私は、別の切り口から本書を読んだ。

本書は、個人に向けた自己啓発本だと思うが、組織のマネジメント本として読んでも有益だと思う。今の若い人たちは、仕事に対しても「充足感」を求めている。言い換えれば「仕事から得られる喜び」といえると思う。人は根源的に仕事から喜びを得たいという欲求があるだろうし、自分の才能を活かしたいという欲求や、何かを与える人(ギバー、Giver)になりたいという欲求があると思う。その「仕事から得られる喜び」が、従業員のやる気とパフォーマンスを最大限引き出すことになると思う。しかし、今の組織のマネジメントは、彼らに「充足感」や「仕事から得られる喜び」を与えられているのだろうか。従業員の動機付けや人材開発・人材育成が課題の会社は多いと思うが、彼らの個性や能力を無視し、予め用意されたプログラムを与えているだけ、ということはないだろうか。そして、人事考課も、彼らの個性や能力を無視し、予め用意された評価基準で評価しているだけ、ということはないだろうか。個人が「充足感」を追求する時代に、組織の論理はもう通用しないのではないだろうか。

会社という経済主体の中に従業員という構成要素がいるという時代は終わり、会社というバーチャルな空間に個人という経済主体が存在するという時代になった、といえば大袈裟に聞こえるかもしれないが、私は既に「個人中心」の時代になったと思っており、マネジメント層こそがコペルニクス的発想の転換をしなければならないのではないかと思っている。