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([出処]日経新聞(2021/9/6朝刊)より)

社長、かくあるべき。

私が最近紹介した『稲盛和夫、かく語りき』、『ソニー再生』、『ビジョナリー・カンパニーZERO』のいずれにも、従業員とのコミュニケーション(対話)がどれほど大切か書かれている。

ビジョン・ミッションが全ての従業員に浸透していたとしても、従業員が経営のことなど考えもせず、社長とは別のことを思っているということは往々にしてある。退社時間までどうやって仕事をしているフリをしようかとか、与えられた仕事をどうやって無難に乗り越えようかとか、いかに楽をして給与をもらおうかとか、そういうことを考えている従業員もいるだろう。利害が反する従業員をうまく巻き込んで、束ねて、社長と同じ方向に向けるかは至難の業であるが、これこそが社長の仕事であり、社長の力量である、ということを数多のビジネス書が教えてくれる。

4年連続赤字だったソニー(現 ソニーグループ)を再生させ、黒字に転換させた平井一夫元社長兼CEOは、社長兼CEOに就任していた6年間、世界中の拠点を回ってタウンホールミーティング(経営陣と従業員が直接対話できる集会)を70回以上開催したという。だいたい毎月1度は世界のどこかの町でタウンホールミーティングを開催していた計算になる。ソニーグループのような巨大企業であっても、社長自身が世界中の拠点を訪ね、従業員に語りかけ、従業員から質問を受け(プライベートなことも含め)、彼らの心に火を付けていったのだ。平井氏は、こうやって従業員とコミュニケーション(対話)をすることによって、社長は「雲の上の存在」ではなく、他の従業員と同じく、家族のために働くひとりの社員であること示し、チームワークを醸成し、従業員をインボルブしていった。

稲盛和夫氏は、「コンパ」と称して、従業員と飲みながら議論する場を設けていたことも有名な話である。

大切なことは、上のスリーエムジャパンの宮崎裕子社長がおっしゃるように、「1対1で話す機会をつくる」ということだと思う。それも、「口頭」で話す機会をつくるべきだと思う。最近は、社内のコミュニケーションをLINE、Messenger、チャットなどに依存している会社が増えてきた。社内では誰も喋っていないのに、笑い声だけが聞こえてくるという異様な雰囲気の会社もある。メールやLINEでのコミュニケーションも大切かもしれないが、それらのコミュニケーションだけでは感情までは伝わりづらい。しかも、LINEなどのコミュニケーションは、どうしても薄っぺらい言葉のやり取りとなる(だから、私はLINEなどのコミュニケーションは極力やらないというのは以前も書いたとおり)。かといって、メールで1度に数百文字、数千文字の文章を送ることも異常。

『ビジョナリー・カンパニーZERO』において、「残念ながら、多くの企業経営者はコミュニケーションが不得手だ。コミュニケーションができないのではない。しないのだ。」(P138)と書かれている箇所があるのだが、実際、その通りだよなぁ〜と思う。マネジメントの仕事の一環として、従業員との対話を通じてのインボルブは絶対に必要なことだと思う。宮崎社長のように「皆の思い込みを取り払うのも私の仕事」と言い切れる社長はすごいと思う。

人の上に立つというのは、恋しさとせつなさと心強さと、愛と感謝とEQが必要となる大変な仕事だと思う。