数多くの「スーパースター」がいるが、この人ほど、人生を楽しんでいるスーパースターっている!?

2年くらい前、TV「しくじり先生」に新庄剛志さんが出演され、20億円以上の大金を騙し取られたという衝撃の告白をした。18歳で阪神タイガースに入団してから、母親の知り合いで、親戚のような人だったAさんに、金銭管理を全て任せていた。完全に信頼していたという。

日本のプロ野球、メジャーリーグ、CMなどで生涯50億円くらい稼いだので、税引後でも25億円くらいの預金があるはずだった。プロ野球選手を引退し、バリに移住を決めた際に、初めてAさんに預金通帳を見せてもらったら、2200万円しか残高がなかった。

思わず、「わいたこら!」と叫んだらしい。
(「わいたこら」とは、九州弁で「なんじゃこりゃ」のような意味。)

しばらくショックで寝ることも出来なかったという。訴訟を起こしたが、その人が自己破産したことにより、裁判は終了。戻ってきたのは8000万円だけだった。

「怒り」は激しいものだったに違いない。「心から信頼していた人に裏切られたのが、本当につらかった」と本書でも振り返っている。この気持は十分に分かる。私も(金銭的な裏切りではないが)心から信頼していた人にひどい裏切りをされ、つらい思いを引きずったことがある。「でも、そうやって人を騙しながら生きていくのは苦しかったはずだ」と相手に同情したくなる点も十分に分かる。

新庄剛志さんは、バリに移住する直前(=お金を騙し取られたことが分かる直前)に離婚している。戻ってきた8000万円でバリに新しい家を買ったが、その時点でお金はなくなり、一人になった。それでも、「1日に4〜5回は『幸せだな』と思う瞬間がある」と言うように、読んでいるだけでも楽しく幸せそうな日々を送る。

心理学の本を多く出版されている加藤諦三氏の本に「騙される人は悔しくて眠れぬ夜を過ごすことがあるかもしれないが、心の底から笑うときもある。だが、騙す人は心の底から笑うときがない」書かれていたことを思い出した。

新庄選手は、過去の辛い経験があるからか、「明るくすることも大事だけど、真剣に約束を守ることも大事」だとも述べている。新庄選手の場合、野球で結果を出すという約束を真剣に果たすために、影で猛烈な努力をしている。自分でも「人一倍の努力を続けた」と認めている。全ての選手が帰宅した後も球場に残って黙々と筋トレを続けるということを、阪神に入団した時からやっていたらしい。

「新庄劇場」と言われるような派手なパフォーマンスが目立つ選手だったが、野村監督から「天才」と称され、世間から「スーパースター」と崇められる裏に、とてつもない努力の歴史がある。

グラウンドでも私生活でも、自分との約束を果たし、結果を出し、周りに感動を与える。こういう生き様に私は惚れる。

ここからは本書が出版された後の話であり、蛇足であるが、新庄選手は、昨年現役復帰宣言をした。何かのTV番組で、プロ復帰に向けてのバリでの自主トレの模様を放送していたが、そのストイックさに唖然とさせられた。起きている時間の大半を野球のことに費していた。筋トレも半端なく、レッグプレスは200キロを超えていたのではないだろうか。何歳になっても、やると決めたことに一切の妥協をせず、徹底してやり抜く姿はただただ刺激になった。


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