桜開花


4月に入り、あちこちで桜が満開になってきた。友達がボソリと「こんな時でも桜は咲くんだなぁ」とつぶやいた。季節外れの雪が舞い、見えないウイルスが猛威を振るう中でも、桜はいつもと同じように綺麗に強く花を咲かせる。

ふと、3年前の4月1日の読売新聞「編集手帳」のコラムを思い出した。

◆11打数0安打5三振。野村克也さんのプロ野球人生1年目である。拝み倒して撤回してもらったものの、シーズンの終了後には解雇を通告されている。その人が戦後初の三冠王になり、名監督になった

◆新国劇の名優とうたわれた島田正吾さんは駆け出しの昔、舞台で『千葉周作』の寺小姓を演じた。たった1行ながら、新聞の劇評欄に初めて名前が載った。〈島田正吾、観るに堪えず〉

◆山中伸弥さんが執刀すると、20分の手術が2時間かかった。足手まといの“ジャマナカ”という異名を先輩医師からもらい、臨床医になる夢をあきらめた。その人がノーベル賞で研究医の頂点を極める

◆きょうが入社式という若い人も多かろう。希望に燃える門出には要らざるお世話にちがいないが、何十年か前のわが身を顧みれば日々、挫折と失意と狼狽と赤面の記憶しか残っていない

◆高見順に『われは草なり』という詩がある。〈われは草なり/伸びんとす/伸びられるとき/伸びんとす/伸びられぬ日は/伸びぬなり〉草の丈が伸びぬ日もあろう。そういう日は、大丈夫、見えない根っこが地中深くに伸びている
([出所]2016/4/1「編集手帳」より)

4月1日、入社式を迎える人達に向けてのメッセージであるが、我々も学ぶところがある。

外出も出来ない。花見も出来ない。会社にも行けない。学校にも行けない。身近に陽性反応が出た人もいる。収入が絶たれたという人もいる。先も読めない。不条理ではあるが、人生は不条理なものだ。思い通りにいかなくて当たり前。思い通りにいったら奇跡。これまでの歴史を振り返るまでもない。

季節外れの雪が舞ったとしても、きちんと根っこを地中深くに伸ばしていけばいい。根が深ければ、そうそうのことで倒れることはない。より強く生きるために今があると思いたい。

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