野村ノート (小学館文庫)
野村 克也
小学館
2009-11-19



先日読んだ野村監督の『エースの品格』が良かったので、『野村ノート』も読んでみた。こちらの方が売れてるらしい。

本書『野村ノート』は、阪神の監督時代に記したものがベースになっているらしい。野球界にいた約50年間、指導者となった約30年間の中で、野村監督が学んだこと、指導者としての在り方・原理原則などがまとまった一冊。『エースの品格』はプレイヤー向けに書かれた本だと思うが、『野村ノート』は指導者向けに書かれた本。野球の指導者だけではなく、人の上に立つ者や、教育者、子育て中のパパ・ママなどにも大いに参考になると思う。

上に立つ者が、下の者にどうやって指導するかは非常に難しい。本書を読んで、全体的に感じたところは、野村監督ほどの実績・経験・技術をもった野球経験者であっても、選手に「技術」を手取り足取り教えるということをする前に、選手にヒントを与え、自分で気づかせ、成長するのを待つ、という一貫した姿勢で選手と向き合っている点。監督は「気づかせ屋」でなえればならないとも言っている(P180)。

それでも成長がなければ、人間の根本の部分に欠点があるわけだから、もう一度人間教育から繰り返す、とも言っている(P181)。この箇所は、特に共感した。私は多くの少年野球指導者、毒親、エセ教育者をみてきたが、彼らに共通するのは、「気づかせる」前に「教える」。そして成長がないと「他人と比較する」。そして「叱る」。そうやって、成長の芽を潰す。

野村監督は、「管理する者は、絶対に結果論で部下を叱ってはいけない」(P44)とも言う。これも大共感。その結果に至るまでに、どう考えて、何をしてきたのかという「プロセス」を見るべきだ。「見逃し三振を許さないという監督がいるが、そういう叱り方をするから(略)”勝負”できなくなる」(P44)のである。教育も子育てもまた然り。下の者が萎縮するのは、上の者に原因がある。

野村監督は、技術向上・基礎体力向上よりも、人間とは何か(人間学)、人生とは何か(人生観)、野球とは何か(社会学)、チームとは何か(組織学)といった「人づくり」に励んできた(第1章参照)。人生論が確立されていない限り、いい仕事はできないからだ(P5)。野村監督にいうところの指導者としての在り方・原理原則とは、ここにある。

本書は、管理者・指導者・教育者・保護者といわれる人にとっては耳が痛い話のオンパレードだと思うが、読むべき一冊かもしれない。野球に関する記述が多いが、そこをすっ飛ばして読んでも、巷のマネジメント関連本より有益だと感じる。


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