大前研一 日本の論点2020~21
大前 研一
プレジデント社
2019-11-14



毎年購入する本は、この大前研一さんの『日本の論点』シリーズくらいかな。
雑誌『PRESIDENT』に連載の「日本のカラクリ」の1年間の記事を編集したもの。大前研一さんの大胆不敵な意見・主張・提案に全て同意できる訳ではないが、その洞察力・分析力は勉強になる。本書の冒頭の「巻頭言」(書き下ろし)は、毎年の楽しみでもある。

今回の「巻頭言」は、『「アホ」が支配する世界で私たちはどう生きていけばいいか』という、これまた棘のあるタイトル。「アホ」とは(もちろん)英米日のリーダーを指している。安倍氏を「アホ」だとは思わないが、21世紀に入ってからの20年間を振り返っての日本国はヤバいと思う。大前氏は、日本を「劣等感の塊」「静かなる死」「課題先進国」「Japan as nothing」…と酷評しているが、これは特段、棘のある表現とは思わない。日本の時価総額トップのトヨタ自動車がグローバルランキングではTOP40にも入っていないことや(P30参照)、日本の人口動態(P129〜参照)を見れば、日本が静かに、確実に、衰えていることは、誰が見ても明らかなことだ。

大前氏は、21世紀に入って20年が経過しても日本の停滞が続いている最大の理由は、「かつての成功の呪縛から抜け出せないことにある」と述べている(P34)。ここでの「成功の呪縛から抜け出せない」というのは、民間レベルの話ではなく、政治レベルでの話を言っている(P38参照)。アメリカでは、テスラのような企業がいきなり時価総額でGMを追い抜くようなことをやっているが、日本では規制に阻まれて公道での自動運転の走行テストもままならない。日本からテスラやGAFAのような新しいプレイヤーが生まれるはずがない。

日本は、逆ピラミッド型の人口構造の少子化・高齢化・人口減少の真っ只中にいる。私は、「老兵」が社会・組織の上層部に居座っている状況が長期間続き、若年層・中年層のテンションが下がっていることも、日本から新しいプレイヤーが生まれない原因であると思っている。かつて私は、「ビットバレー」のど真ん中にいたが、今のインキュベータにはあの頃のような覇気が見えない。

先日、息子(12歳)と2人で外食をした際に、「今後、日本は恐ろしい勢いで人口が減っていく。人口が減るということは、労働力が減り、GDPが減り、国が衰退することになる。国の財政が破綻するかもしれない。自分は今、そういう国にいるということを知っておくべき。だから、今の段階で『将来は○○になる』など決めない方がいい。それよりも、日本以外で生きていくことも視野に入れるべき。自分の身は自分で守るために、幅広い知識を吸収し、語学力を身に付けておいた方がいい」といいようなことを伝えた。多分、理解してくれたと思う。

こういうことは大人も理解すべきと思うが、(大前氏も言うように)日本人は危機感が薄い。ここに、MMT(現代貨幣理論)なんかが祭り上げられ、「いざとなれば際限なく自国通貨を発行できるから、日本がデフォルトになることはない」なんていう人が出てきたが、大前氏は「これはまったくの見当違い」(P72)であり「空論」(P78)だという(詳述は省くが、ここは一読の価値ありか)。大前氏は、2024年に新紙幣に変更するのは、国民の資産(タンス預金)をパクり、さらに、資産課税を導入しようという財務省の思惑ではないか、とも述べている(P56〜)。真意は不明だが、日本にいることのリスクと強い危機感は持っておくべきだと思う。「アホ」と言われないように。

日本の成長のあしかせとなっている深刻な人手不足の特効薬となるのは「戸籍廃止」と「移民受け入れ」だという主張(P128〜)は同意。この主張は、2016年に出版された『低欲望社会』 (小学館新書)でも述べられていたが、改めて同意する。今どき、戸籍制度が残っているのは日本と(日本の統治下にあった)台湾くらいしかない。デンマークには出生証明書に父親の名前を書く欄すらないという。日本は戸籍制度があるために「籍には入れられないから中絶するしかない」というケースが増え、堕胎数が出生数より多いという推計もあるという。だから、世界的にみて婚外子の割合が日本は極端に少ない。さらに離婚した場合に「どちらか一方しか親として認めない」という単独親権の制度が、日本のシングルマザーの貧困率を高めているという問題もある(単独親権は先進国で日本くらい。この問題は橘玲氏のブログでも取り上げられている。)。戸籍制度は出生・離婚の問題以外にもリスクを抱えることになる(これも詳述は省く)。

これ以外にも取り上げたい論点が幾つかあるが、余りにも長文のエントリーはアクセス数が減るので、そろそろ止めておきましょうか。おあとがよろしいようで…。