コレド室町テラス


私よりも若い中小企業の社長から、「ビジネスで成功する人と、成功しない人の違いは何だと思いますか?」という質問を受けた。この社長は、父の逝去により家業を継ぐことになったが、会社は赤字。経営の経験もないし、会計の知識もない。「この1年は自己投資と割り切って、みっちり勉強し、会社を立て直す」と意気込んでいる方。

私は、「成功する人は、貢献の先に成功があることを知っている人」であり、「成功しない人は、に溺れている人」だと思う、と答えた。

独立して15年の間には色んなクライアントがあった。高級車を乗り回し、夜な夜なクラブやスナックで札をばら撒き、「近い将来、上場する!」と言いふらしていた社長がいた。しかし、足元は債務超過で、数億円の借入は全行リスケ。融資を受けるために粉飾決算も行われていた。「セールスとマーケティングを率先してやるべき」という私の提案を無視し続け、ネオン街を徘徊していた。そして、ある日、会社の玄関に弁護士の名前が書かれた破産手続開始の通知を貼り付けて、行方をくらませた。しばらく経った後、この社長が個人の破産手続中に財産を隠蔽し逮捕されたという記事を新聞で見た。新聞に書かれていた容疑者の住所は、自ら潰した会社から数百キロも離れた場所だった。この人は、最後の最後までお客様と接することを拒み、自分の利益しか考えずに、短絡的な快楽を追いかけていたと思う。私を雇ったのも、お客様のためではなく、自分の利益のためだったんだろう。私も良い勉強をさせてもらった。他山の石を以て玉を攻むべし。

会計士などの士業にもこういう人はいる。儲け話があるとすぐに飛び付く。それで講演したり、本を書いたりしている人もいる。しかし、こういう人は、別の儲け話があると、またそっちに飛び付くのだ。「結局あなたの専門は何なの?」と思う。仮に儲けていたとしても成功者とは思えない。

成功する人は、何らかのカタチで他者に貢献している人だと思う。貢献とは、自分を犠牲にすることではない。寄付行為でも、ボランティアでもない。(自分の利益ではなく)他者に利益をもたらすことが貢献だと思う(直接的であれ、間接的であれ)。

先日も紹介した岸見一郎氏の新刊書『哲学人生問答』に、この「貢献」について詳述されている。

・「他者貢献は回りまわって、結局のところ自分に戻ってくるものです」(P103)
・「そういう意味で他者貢献は自分のためでもあるのです」(同)
・「自分のことしか考えないエリートは、有害以外の何物でもない」(P104)
・「他者に合わせて、他者のために自分を犠牲にするという生き方をやめましょう」(P110)

そして、ありのまま自分で、普通の自分でいるだけで、他者に貢献しているのだ、と(P115)。

何をもって成功というのか、その定義は人それぞれだと思うが、巨万の富を築くことが成功だとは思わない。少なくともビジネスでの成功は、顧客の夢を実現したり、不を解消したりするような価値を提供し続けることであり、それを通して、感動を与えたり、ありがとうを集めたりすることではないだろうか。(岸見一郎氏がいうように)それが回りまわって、自分に戻ってくる。それが信頼になり、富になり、社会への足跡になるのだと思う。

だから、上の社長さんには、「本業を通した貢献こそが最大の社会貢献だと思う」ということも加えてお伝えした。松下幸之助翁もそんなことを言っていたと思う。私のもとには色んな儲け話が舞い込んでくるが、ほとんど興味がない。それをやってキャッシュが増える「かも」しれないが、増えたところで誰からも「ありがとう」と言ってもらえない。よく分からないものに投資するくらいなら、利回りのいい不動産や株式に投資している方がマシだと思う。上の社長さんも、まずは本業を通して既存客・見込客から「ありがとう」を集めることを考え抜いて欲しいと思う。


(※ 写真は、宿泊したホテルの近くにて。本文とは関係ない。)