面白い本だった。

「個性学」なる学問があるらしい。

日本の教育システムは、個性を潰し、出る杭を打ち、個人の「才能の原型」や「自分らしさ」を見失せるものだと思う(ってことは以前も書いたとおり)。個性を伸ばすような教育をすべきだと思うのに、『平均』に近い人(or すべての科目が平均点以上の人)は才能があり『平均』からかけ離れた人(or 科目によって平均点以下がある人)は無能とみなされ余り評価されない。そこにずっと疑問を抱いている。個々の尖った才能を伸ばすことより、どれだけ『平均点』が高いかを競わすために公教育も受験教育もあるように思えてならない。学校や塾は、ユニークな個性も独創性も才能も奪い取り、標準化された人間を育てる「収容所」のようにも思える。

だから、「個性学入門」なるタイトルの本を見付けた時、自然と手に取ってしまった。

本書は、もともと早川書房から『平均思考は捨てなさい −出る杭を伸ばす個の科学』(原題:"The End of Average - How we succeed in a world that values sameness") というタイトルで刊行されていたものが、最近改題され文庫化されたもの(つまり、原題には、「個性学」も「ハーバード」も無いんだけど、『平均思考は捨てなさい』というタイトルにも十分惹かれるものがある)。

教育だけでなく、子育ても、職場も、医学の研究も、製品・設備・機器も、あらゆるものが『平均という気まぐれな基準』が前提に設計されているが、本書は、『平均的な人間』などどこにもいないことを様々な事例やエビデンスを元に明らかにしていく(平均的なコックピットに合う体型の操縦士はいない、など結構衝撃を受けたエビデンスもあった)。

本書では、個性に関して「3つの原理」を示している。
それは、以下の3つ。
1.バラツキの原理
人間の才能にはバラツキがある。

2.コンテクストの原理
人間の行動は状況によって変わり、才能も状況によって発揮される。

3.迂回路の原理
ゴールへの道は個性によって決定され、しかもどれも妥当な方法である。

本書を読むと、他人と比較することがどれだけ無意味なことなのかを痛感する。

家庭での子育て、学校での教育、職場での育成は、人それぞれの「個性」に着目していないことが多い。著者は、少なくとも伝統的な公教育制度については「個性の諸原理に反している」(P263)と述べている。さらに、「私たちの学校や仕事を平均的なシステムではなく、個人にフィットするように設計し直せば、どれだけの才能が花開くか想像してほしい」(P264)とも。

幼児がハイハイしてから歩き始めるまでの行動パターンですら25種類もあるという(P179参照)。正しい行動なんてないし、正しい偏差値なんてものもないし、正しい体型なんてものもない。他人より識字能力が低かったり、発達障害と診断されたりすることも、実は「個性」のレベルなのかもしれない。

個性を必死に隠そうとする人がいるが、ユニークな個性を磨くべきだ。

他人と比べず、生き急がず、自分の個性を最も発揮できる方法で、コツコツと進むことが最良の方法なんだろう。人の上に立つ者はそういう教育・育成をしなければならないと思う。