あられもない祈り (河出文庫)
島本 理生
河出書房新社
2013-07-05



Red (中公文庫)
島本 理生
中央公論新社
2017-09-22



今年の年始に書店でたまたま手に取った『イノセント』が素晴らしい小説だったので、『ナラタージュ』『ファーストラブ』に続き、『あられもない祈り』『RED』も読んだ。今年に入って島本理生の本を5冊読んだことになる。同じ作家の本をこんなに立て続けに読んだのは生まれて初めてのことだ。さらにいえば、こんなに立て続けに恋愛小説を読んだのも生まれて初めてのことだ。

なぜか彼女の作品に惹かれる。
なぜか…と言いながら、その理由は分かっている(だから惹かれるのだ)。

それぞれの作品の主人公は、特殊な事情を抱えている。

『イノセント』は幼い息子を抱えるシングルマザー
『ナラタージュ』は男性教諭を愛した女子学生
『ファーストラブ』は父親を殺した娘
『あられもない祈り』は婚約者がいる男を愛する若い女性
『RED』は不倫をしてしまった既婚女性

こういう人たちが恋愛をするのは、世間一般的には、”タブー” なんだろう。汚らわしいんだろう。批判されるんだろう。しかし、それって、(赤の他人の)芸能人の不倫を痛烈に攻撃する愚民と同じではないのか。恋愛ってそんな単純なものか。

それぞれの主人公が、何か過去・現在に何かを抱えている。そういったものから無意識に距離を取っている。感情に蓋をしている。そして自分に嘘を付き通していく。そうやって自己欺瞞と自己正当化を繰り返していく。しかし、人間には、いつぞや、自分や過去と向き合わざるを得ない場面がやってくる。恋愛を通して。

彼女の作品は、その人間の心理の変化を、ポエムのような文章を織り交ぜながら、流れるように書きあげる。どれも「あられもない」シチュエーションを描くが、読み進めるとそれが自分や身近な人を見ているような既視感やリアリティがある。それは、私の中にも不道徳な部分があるからだ。透明度100%の人間なんていない。人間は不純物であるが、だからこそ哲学を学ぶ。そういったことを小説に変換してしれっと書き上げる島本理生という作家はすごい人だと思う。