南国


旅をする時は、殆ど荷物を持っていかない。周りの観光客を見ると、あんなに馬鹿でかいスーツケースに何を入れてるのかが気になる。数日分の下着と、本とkindleとペンとメモがあれば十分だ。観光でスケジュールを埋めることはしない。ビーチかプールサイドかカフェでぼーっと本を読んでいるのが心地良い。

今回の旅で中村文則さんの『あなたが消えた夜に』という小説を持っていった。旅行好き・読書好きの友達Tの薦めで。中村文則さんの本は初めて手に取ったが、この本はハマった。持参した他の本は放ったらかしで、この本を年末年始に二度読んだ。

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「あなた」が消えたら、「わたし」はどうなるんだろうか。

「あなた」が他の異性とSEXしてたら
「あなた」が他の異性と逃げたら
「あなた」がどこにいったか分からなくなったら

「わたし」はどのような感情が生まれるんだろうか。

特にそれが、愛をはぐぐんだ相手だったとしたら。


悔しい、寂しい、辛いといった悲しみの感情ばかりか、怒り、憎しみ、許せないといった憎悪の感情が生まれる場合もある。「わたし」は絶望の淵を彷徨うかもしれない。そうなれば、消えた「あなた」をひたすら追いかけるかもしれない。復讐するかもしれない。不幸のどん底に突き落とすかもしれない。殺すかもしれない。それが、まるで愛情表現の手段であるかのように。実際そうして自分の人生を破滅させてしまう人もいる。

そういう人が本書に登場する。

本書に登場する複雑な人間関係にしばらく ”意味が分からない” と思った。しかし、読み進めていくにしたがい、その糸がほどかれていき、過去の記憶、心の傷、人間の暗部に焦点が当たり、人間の狂気性、罪悪感をえぐり出す。人はなぜ愛に狂い、闇に堕ちていくのか。人はなぜ自ら歪んだ状況をつくり、破裂していくのか。

それも無意識に。

自分が望んでもない方向に…。

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読みながら自分自身の過去の記憶とオーバーラップしていく。気にかけてくれる人が現れるとわたしの元から消えていった「あなた」。堕ちていく「わたし」。すべてが空虚になり、自分の存在意義を失いかける。人間はそんな経験を何度も経て内面が作られていく。良くも悪くも。

最近「孤独」「寂しさ」をテーマにした本が多いし、そういうタイトルの本が売れているように思う。人間は何かに依存しなければ生きていけない生き物だから。それは神かもしれない、宗教かもしれないし、異性かもしれない。「性依存」というコトバがあることを本書で初めて知ったが、性に依存しなければ生きていけない人もいる。その依りかかれるものを失った時、「もう終わった生活をしているような感じ」(P221参照)になる。だから、それが自分が望んでいる方向ではなくても、何かに依存せざるを得ないのだ。それが周りから ”狂気” と見えても。だから、世の中には自分が理解に努めても理解できない人がいる。

果たして、今のわたしは何に依りかかっているんだろうか。それは自分が望んでいる人生なのだろうか。さざなみの音を聞きながらしばらく考えた。



あなたが消えた夜に (毎日文庫)
中村 文則
毎日新聞出版
2018-11-07