続きです。


今でも週に3〜4回、いや5〜6回(?)は本屋に行きます。暇があれば行く。疲れたら行く。何が出会いを求めて行く。気になる本があればとりあえず買う。

そんな感じでぷらっと入った紀伊國屋書店で、あの話題作『夫のちんぽが入らない』がもう文庫化されていることを知りました。単行本で読む気にはなれなかったけど、文庫化されて600円なら暇つぶしに読んでやってもいいか、、、なんて上から目線で買ってやりましたが、これは今年読んだ小説の中では一番かも。単なる18禁のエロ私小説ではなく、実に深い内容です。






これまで村田沙耶香さんの小説を取り上げ、何が『正常』で、何が『異常』かについて書いてきました。世間から『正常』『普通』と思われているものが、本人からすると発狂したくなるようなことかもしれません。世間から『異常』と思われているものが、本人からすると『普通』であり、自分らしいものかもしれません。完璧な人間なんていませんし、何が完璧かなんて誰も分からない。人それぞれに価値観・倫理観があるわけで、それを他人に押し付けたり、押し付けられたり、人の価値観・倫理観に迎合する必要はない。

本作『夫のちんぽが入らない』も、その「正常 vs.異常」について、真正面から、どストライクで問うた作品。

学生時代に同じアパートに住む先輩と交際を始めるも、彼のちんぽが入らない。何度やっても「入らない」。しかし、二人は精神的な結びつきを深め、結婚する。しかし、結婚した後も「入らない」。仕事もうまくいかず、退職し、無職に。

29歳、相変わらず無職の日が続いている。正確には専業主婦なのだから、無職という言い方はおかしいのかもしれない。けれども、子がおらず、身体のあちこちが軋むように痛んで家事もままならない私は「無」がふさわしいように思う。私は何もしていない。誰の役にも立っていない。夫のちんぽも入らない。存在する意味を見出せないまま、いたずらに時間だけが過ぎていた


「普通」じゃないということが彼女を自暴自棄にさせる。

追い打ちをかけるように彼女の母が、夫の両親の元を訪れ「謝罪」する。

「うちの子の身体が弱いために、お宅の後継ぎを産んであげることができず、本当に申し訳ありません。うちの子は、とんだ欠陥商品でして。貧乏くじを引かせてしまい、なんとお詫びをしてよいか」

オカン強烈・・・と思いましたが、似たようなことはよ〜くある。親の「正常」が子供を潰す。

しかし、「とんだ欠陥商品」の彼女は、その後も少しずつ「正常」から解放されていきます。本書の最後、「入らない」彼女のもとに保険外交員が学資保険の勧誘にくるシーンがあるのですが、ここのシーンこそ、長年「正常」に苦しめられてきた彼女の叫びであり、著者が本書を(夫に内緒で)書いた意義であろうと思います。

人に見せていない部分の、育ちや背景全部をひっくるめて、その人の現在があるのだから。それがわかっただけでも、私は生きてきた意味があったと思うのです。


大切なのは、「正常」に生きることではなく、生きるという決意。

そういう当たり前のことを、自身の半生をさらけ出して教えてくれた一冊です。オススメです。