なぜ『子供』が欲しいと思うのか、なぜ『家族』が欲しいと思うのか、それは『本能』なのか。

『本能』だとしたら、なぜ『子供』に会いたいという気持ちだけで『家族』を繋ぎとめるのか、『家族』を繋ぎとめているのに不倫やセックスレス夫婦が離婚の原因となるのか。

そういった問題は、中野信子著『不倫』 (文春新書)を読めば、道徳観や倫理観だけでは説明できないことが分かります。何が『正常』で、何が『異常』なのでしょうか。



医学の発達により、近未来がこんな世界になっていたらどうでしょうか?



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人工授精の研究が飛躍的に進化した世界。

そこでは、出産が必要とされなくなる。

そのため、セックスも必要とされなくなる。

セックスが必要とされなくなるため、恋愛も必要とされなくなる。

家族も必要とされなくなる。

性別までも必要とされなくなる。




子供たちの多くは人工授精で生まれ、出産はコンピューターで管理される。

セックスは不衛生といわれ、夫婦のセックスは近親相姦といわれ変質者扱いされる。

セックスは、戦争時に戦力になる子供をたくさん作ることが目的だと授業で教えられ、セックスによって生まれた子供は”交尾で生まれた”とバカにされる。

『家族』というものは消滅し、すべての大人が「おかあさん」となり、すべての子供が「子供ちゃん」と呼ばれ、すべての「おかあさん」がすべての「子供ちゃん」を共同で育てる。

「こっちの世界」(=人工授精で子供を産む世界)が『正常』とされ、「あっちの世界」(=愛し愛されて子供を産む世界)が『異常』とされる。

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これ、芥川賞受賞作『コンビニ人間』の著者 村田沙耶香さんの『消滅世界』 (河出文庫)という小説に出てくる話です。

なんだがグロテスク過ぎて受け入れられないし、読みながら気持ち悪くなり、途中で何度も読むのを止めようと思いました(けど、最後まで読みました)。

しかし、こんなに立ち止まりながらアレコレと考えた小説も珍しい。


例えば、「こっちの世界」に移り住んだ娘(主人公)が、「あっちの世界」にいる母親に投げかけるこんな言葉など。

「どの世界に行っても、完璧に正常な自分のことを考えると、おかしくなりそうなの。世界で一番恐ろしい発狂は、正常だわ。そう思わない?」(P264)

「お母さん、私、怖いの。どこまでも ”正常” が追いかけてくるのちゃんと異常でいたいのに。どこまでも追って来て、私はどこ世界でも正常な私になってしまうの」(同)


ヒトとチンパンジーのDNAの相違率は1.6%に過ぎないのに、ヒトは妊娠と無関係にセックスをするようになり、セックスを他人の目から隠すようになった(参照)。これは『進化』なのか『本能』なのか、『正常』なのか、『異常』なのか。

『子供』や『家族』が命を繋いでいくものなのであれば、ヒトはなぜこのように進化したのか。上の小説ような世界に進んでいくのか。

考えだしたらキリがありません。未完のエントリーですが、これくらいにしておきます。



消滅世界 (河出文庫)
村田沙耶香
河出書房新社
2018-07-05