精神科医の岡田尊司(おかだ・たかし)さんという方が書かれた『生きるための哲学』 (河出文庫)という本は、私が繰り返し読む本のひとつです。この本と出会って、私は残りの人生を「自分の哲学を完成させる」という壮絶な闘いに割くことを決めました。

その岡田尊司さんの『人間アレルギー』という本が文庫化されたので、読んで見ました。なかなかすごいタイトルです。

本書は、こんな一節から始まります。
人は一人では生きられないという。だが、それは一面の真実でしかない。

その「一面」をとって、人は「みんなと仲良くしなさい」とか「協調性が大切だ」とか言いますが、果たしてそうでしょうか。私は小さい時から現時点に至るまで納得できないコトバです。嫌いな人間がいる。許せない人間がいる。受け付けない人間がいる。価値観が合わない人間がいる。それが普通だと思います。なのに、許せない人などと仲良くなること、和解すること、打ち解けることが「善」で、そうしないことが「悪」というような論調が私には納得できません。本来、精神的に受け付けない人間がいたら「回避」するのが動物的な正しい行動ではないかと思うのですが、そこを「接近」しなければならないと思うところに心理的・肉体的な不調・不快・疲労、精神的な苦痛・恐怖感が起こり、場合によっては病気になったり、自分や他者を傷つけたりするのではないでしょうか。

この、あまりにも人間的な問題をどう克服すべきなのかを示したのが本書。

人間の人間に対する過剰な異物認識と心理的な拒絶反応――それを私は「人間アレルギー」と呼びたい。
(略)
27年にわたる私の臨床経験に照らしていうならば、1人の人に対して人間アレルギーを起こしやすい人は、別の人に対しても同じことが起きやすい。つまり、相手をいくら変えたところで、会社をいくら変わったところで、また同じことが起きてしまう。周囲の人間を変えようとしても無駄なのである。本当に改善すべきは、その人自身が抱えた人間アレルギーなのだから

その視点をもてば、人間の苦悩の多くが人間アレルギーに由来するとともに、また、多くの人生が、人間アレルギーとの戦いに費やされていることに気づくだろう。生きづらさも、孤独も、心を濁らせるネガティブな感情も、元をたどれば人間アレルギーに由来する。それゆえ、人とのつながりに違和感や苦痛を覚え、生きづらさを抱えている人が、良好な社会適応をはかり、幸福に生きようとすれば、人間アレルギーについての理解が不可欠である。(P5〜)

我々の苦悩の多くは「人間アレルギー」。
アレルギーなのだから、花粉症なんかと同じで、過敏に反応(=アレルギー反応)しているのあり、克服することもできる。

ただ、著者は「残念ながら」をいう枕詞を付けて、医学の限界を述べる。今日の医学は「症状診断」(=表面に表れている症状によって病名を付けて分類する方法)を取っていることから、「真の病因」が分かりにくく、曖昧にしているといいます。例えば、「社会不安障害」「適応障害」「パーソナリティ障害」「気分変調症」・・・といった病状を診断され、薬剤が処方される。まるで薬剤を処方するために病名が付けられているかのように。根本的原因は「人間アレルギー」であるにも関わらず・・・。

本書では、著者自身のクリニックの臨床例や、歴史上の人物のケースの事例など、非常に多くの「人間アレルギー」の事例を取り上げ、それぞれの克服法を述べてくれております。事例の中には自分ことを言われているようでドキっとさせられたものも多くありました。

それらを通して、最後に著者の結論が述べられていますが、私にとってはその結論よりも、苦悩の根本的原因は「人間アレルギー」であり苦悩の克服には「人間アレルギー」を知ることである、ということを知ることができたことの方が大きい。花粉(異物)を完全に排除しようと思ってもできません。異物を排除しようとしたり、攻撃しようとしたりするのではなく、その異物を心の中でどう認識し、処理するのか。私が本書を読んで感じたのは、(やっぱり)許せない人や嫌いな人がいてもいいじゃないかということです。許せない人間がいることについては、許すか許さないかという問題ではなく、それに対して過敏な反応を示さないこと。未来に影響させないこと。それが大切なのではないかと思いました。

だから、本書で引用されている多くの著書の中で、私はサマセット・モームの書籍の一節が非常に共感できるのです。
「心の底まで相手を知り尽くし、知り尽くされようと、力の限り寄り添おうとする。だが、少しずつ、そんなことは土台不可能で、どんなに熱意を込めて相手を愛そうと、どんなに親密に相手とつながろうと、しょせん、相手は見知らぬ他人でしかないということを知るようになる。もっとも献身的な夫や妻でさえ、互いをわかることはない。それゆえ自分の殻にこもり、黙り込み、誰にも、一番愛している人にさえ見せることのない自分だけの世界を作るようになる。理解してくれる人はないと悟ったがゆえに」
(サマセット・モーム『作家の手帳』より、本書P186)

完璧な人間関係を目指して疲れ果てる必要なんてない。自分にとって大切な人を(たとえそれが一人しかいなくても、会ったことがないひとであっても、故人であっても)大切にしていくことの方が大切。「人間アレルギー」を持っていることに負い目を感じる必要もないし、コンプレックスを抱く必要もない。

著者の言いたいこととは異なるかもしれませんが、私は本書からそのように感じました。