ハヤカワ・ノンフィクション文庫を紹介するのは、デイヴィッド・ブルックス著 『あなたの人生の科学』以来かもしれませんが、今回の本『滅亡へのカウントダウン ―人口危機と地球の未来』も超越した作品でした。
地球上の人口が10億人に達したのは1815年頃。ホモ・サピエンスが姿を現してから20万年近くかかりました。そこから約100年後の2011年には70億人に達しました。そして、2100年には109億人に達します(下図参照)。
([出処]上巻P90より)
なんで、こんなことが起こったのか?
第1章では、自分たちの宗教を冒涜する者への対抗策として、ハレディー(イスラエルの超正統派のユダヤ教徒)の単純な戦略は「生殖」だという話が紹介されています。ハレディーは平均7人弱の子供を擁しており、2桁に達するケースも多いようです。その結果、ハレディーの人口は17年ごとに倍増している。しかし、お隣のパレスチナでもアラブ人人口が激増し、両者の「人口レース」はどちらが勝利するか見通しが立たない。確実に言えるのは、あの辺りの人口は激増するということです。
人口増加は、もちろん宗教上の対抗策だけではありません。
第2章では、このように書かれています。
こんにちの子育て世代が一家族あたりにつくる子供が減っているとしても、彼らの祖父母や両親が非常に多くの子供をつくったせいで、四・五日ごとに100万人を超える人間が地球上に誕生している。小学生が聞いても、持続が簡単な数字ではないことがわかるだろう。(上巻P80)
このように、地球上の人口が増え続けるとどうなるのか。食糧難、水不足、エネルギー不足、天然資源の枯渇、二酸化炭素の増加、気温変動(温暖化)、水面上昇、多くの大陸・群島の水没、多くの種の生物の絶滅、感染病の流行・・・・・といった問題が引きおこり、飢餓がさらに増え、貧困層がさらに増え、結果として強制的に人口が減らされることになる。
こういった問題は、宗教(神)が解決する、もしくは、テクノロジーが解決すると考えている人もいるようです。しかし、現実的にそれらが解決することは難しい。
では、強制的・政策的に人口を減らす、人口抑制、産児制限をすべきなのか。本書では、中国の一人っ子政策をはじめ、様々な国の人口抑制策が紹介されており、これらを読んでいると、少なからず嫌悪感を抱きます。我々には子孫を残す自由があり、それを国家や法律が奪うことは本来してはならないことだと思います。しかし、子供を産む数を減らしたことによって、飢餓状態を脱し、子供たちが生き延びる確率が高くなるという様々な国の事例を読むと、無制限に子供を増やすことが決して自由とはいえないのではないかという気にもなります。
世界を見渡すと、中絶が殺人とされる国もあれば、膣外射精を禁止している宗教もあるようです。また、コンドームやピルといった近代的避妊法を利用できずにいる女性が世界には何億人といるようです。現在でも、全ての妊娠の半分は意図されたものではないといいます。
このまま人口が増え続けたら地球がもはやその重みに耐えられない状況で、我々はどうすべきなのか。嫌悪感を抱かせない政策によって出生率を1.7人まで下げたイランのケースなど、驚くほど多くのエピソードが紹介されており、色々と考えるきっかけとなりました。
印象に残ったのはこの文章。
人口科学は自然科学と社会科学の交差点だ。(略)自国にとって適正な人口はどれくらいかを決めようとしたとき、(略)この物語は、一つの疑問に要約される。すなわち、人間とは何か、という疑問だ。(上巻P294)