バンコクでの出来事。

日本人の旅行客が少ないこの時期に、日本人の女性(20代)がバックパックを背負って一人で旅行をしていました。台湾、ベトナムを経由して、バンコク入りし、シンガポールへと向かうようです。使い古されたバックパックは友達から借りたもので、生まれて初めての一人旅だそうで。

事情を聞けば、これまで勤めていた会社を辞めたばかりだとか。これからどうしようかと思っていた時に、ある人から沢木耕太郎の『深夜特急』の本と共に、しばらく旅行にでも行ってこいと言われたんだと。

旅行に行く前は、不安で不安で仕方なかった。一人旅自体が初めてなのに、初めての東南アジアを何日もかけて回るなんて、信じられないことを計画してしまったものだ・・・。生きて帰ってこれるのだろうか・・・、と。

しかし、台湾、ベトナム、バンコクと来た彼女は、今この瞬間をホンキで楽しんでいる。「楽しくて楽しくて仕方ありません!」、「もう帰りたくないよー!」と、屈託の無い笑顔を見せる。

「出来ないと思っていたのは思い込みでした」
「やったことがないというだけで不安になっていた」
「そして、やらない言い訳をたくさん考えていた」
「やってみたら大したことなかった」
「そうやって、自分に制限をかけて、人生を無駄にしてきた気がします」

彼女は、今回の旅で、自分の中にあるborderをも超えたのかもしれません。

旅は人を変える、といいます。彼女も何か弾けたのではないでしょうか。
なんとなく、この子は大物になるんちゃうか・・・という気がします。


『旅は人を変える。しかし変わらないという人というのも間違いなくいる。旅がその人を変えないということは、旅に対するその人の対応の仕方の問題なのだろうと思う。人が変わることができる機会というのが人生のうちにそう何度もあるわけではない。だからやはり、旅には出て行ったほうがいい。危険はいっぱいあるけれど、困難はいっぱいあるけれど、やはり出ていった方がいい。いろいろなところに行き、いろんなことを経験した方がいい、と私は思うのだ。』
(沢木耕太郎『旅する力―深夜特急ノート』 (新潮文庫)より)