沢木耕太郎さんの『深夜特急』がきっかけで、人生が変ったという人はどれだけいるのだろうか。

今でもはっきりと思い出すのは、ヴィレッジヴァンガードで沢木耕太郎の本が積み上がっていた光景です。あの時、ヴィレッジヴァンガードにいなければ、そして、『深夜特急』を手に取ってレジに向かってなければ・・・私は違った人生を歩んでいた気がします(ヴィレッジヴァンガードのレジに文庫本1冊だけを持って並んでいた時に、何となく申し訳ない気になったことも、はっきりと思い出されます)。

先日、沢木耕太郎さんの『一瞬の夏』を紹介してくれた友達が、『旅する力―深夜特急ノート』というエッセイも薦めてくれたので、興味深く読んでみました。

『深夜特急』の企画(計画)がなぜ立ち上がったのか? なぜ26歳の時だったのか? なぜヨーロッパ(ロンドン)を目指したのか? 『深夜特急』というタイトルはどこからきたのか? といった『深夜特急』の裏話的な話も面白かったのですが、全体を通して沢木さんの人生や旅に対する考えが、(ノンフィクションとしてではなく) 読者に対する直接的な語りかけのカタチで知ることができる一冊です。

『旅は人を変える。しかし変わらないという人というのも間違いなくいる。旅がその人を変えないということは、旅に対するその人の対応の仕方の問題なのだろうと思う。人が変わることができる機会というのが人生のうちにそう何度もあるわけではない。だからやはり、旅には出て行ったほうがいい。危険はいっぱいあるけれど、困難はいっぱいあるけれど、やなり出ていった方がいい。いろいろなところに行き、いろんなことを経験した方がいい、と私は思うのだ。』(P314)
これは100%同意。旅は人を変える。旅には出て行った方がいい。カネと時間の許す限り行った方がいい。

『・・・旅を気軽にできるようになった若者たちい対して、私が微かに危惧を抱く点があるとすれば、旅の目的が単に「行く」ことだけになってしまっているのではないかということです。大事なのは「行く」過程で、何を「感じ」られたかということであるはずだからです。目的地に着くことよりも、そこに吹いている風を、流れている水を、降りそそいでいる光を、そして行き交う人をどう感受できるかということの方がはるかに大切なのです。』(P343)
これは『深夜特急』を読んだ時に痛烈に感じたことです。いわゆる観光スポットだけをバスを乗り継いで「行く」ことは旅ではない。行った先々で何を「感じ」られたか。「感じ」るものがあれば、予定を変更して、そこに居座っていてもいいし、延泊したって構わない。そういう旅の仕方があるということを教えてくれたものも『深夜特急』かもしれない。

『もしあなたが旅をしようかどうしようか迷っているとすれば、わたしはたぶんこう言うでしょう。
「恐れずに」
それと同時にこう付け加えるはずです。
「しかし、気をつけて」』
(P344)