地元の地方紙に、児童養護施設で長く暮らした渡井(わたい)さゆりさんという方が書いた『「育ち」をふりかえる』(岩波ジュニア新書)という本が紹介されていて、何となく買ってみたんです。

小さい時から両親が大喧嘩したり、母が家出したり、父が夜逃げしたり・・・、そして施設に預けられるという、壮絶な人生を歩んでこられた著者。小さい時は、「育てるつもりがないのであれば、生んでくれなければよかったのに」と思っていたようです。そんな著者も、大人になって、結婚して、子育てをする中で、両親の苦しみ・悲しみを理解できるようになったといいます。

この本を読んで思いましたが、本来、人間は生まれた時から「甘えたい」んですよね。誰かに依り添って生きていく動物なんです。それは大人になっても変わることがない。

しかし、身近な両親にすら「甘える」ことができない子供がこの世の中には多くいる。両親からの愛を感じることなく、「生んでくれなければ・・・」、「生きてはいけないのでは・・・」と思いながら自己否定していく子供達。

そういう子供達がそのまま大人になっても、人に依りかかることができないという苦しみを背負うことになる。

上の本の著者渡井さゆりさんは、両親に甘えることができなかった。母親が自分のことで精一杯だったことから、自分も母親を励ますことで精一杯だったとふりかえっています。

児童養護施設で長く暮らしたことがある人はほんの一握りしかいないかもしれないけど、同じような苦しみを背負いながら生きている人はめちゃくちゃ多いんじゃないでしょうか。

私は、以前から「良い人間関係とは何だろうか・・・」と自分に問い続けており、人間関係に関する本は何十冊と読んできまし、「この人、人間関係のプロだなぁ〜」という方にはその極意を直接聞きに行ったりしました。その中で思うのは、人間は本質的に弱いということと、良い人間関係とは「甘えられる関係」であるということです。「甘えられる関係」といってもデレデレするという意味ではなく、精神的に「依りかかれる」という意味です。両親、子供、兄弟だけでなく、友達、同僚などとの関係であっても、「依りかかれる」という関係が良い関係ではないかと思います。

心理学者アルフレッド・アドラーは『人間の悩みはすべて対人関係の悩み』だといいます。だから、あえて人との繋がりを避ける人も少なくないと思います。世の中不条理ですから、繋がらない方が楽です。でも一人では生きていけません。甘えられる人が一人でもいれば幸せですし、自分が依りかかってもらえる肩になれるのであればそれも幸せだと最近思います。


【参考図書】
土井隆義著 「友だち地獄―『空気を読む』世代のサバイバル」
高野登著 『あえて、つながらない生きかた』