奇跡の教室 エチ先生と『銀の匙』の子どもたち奇跡の教室 エチ先生と『銀の匙』の子どもたち
著者:伊藤 氏貴
小学館(2010-11-29)
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●日本一の学校での「奇跡」の勉強法!

灘中・灘高といえば、東大合格者数トップ校の一角を占める学校として知らない人はいないだろう。
しかし、かつては東大合格者もゼロで、“公立校のすべり止め”の学校だったらしい。

それが、ある「奇跡の教室」で行われた授業により、灘は「私立校として史上初めての東京大学合格者数日本一」という偉業を成し遂げる。昭和43年、1学年約200人の灘高から、東大合格者132名を輩出し、合格者数日本一になっただけでなく、合格率も他校を圧倒する。

その「奇跡の教室」で行われた授業とは何なのか。
それは、「エチ先生」こと、橋本武先生による国語の授業。なんと、教科書を一切使わず、一冊の薄い文庫本、中勘助の『銀の匙』を3年間かけて読み込むという型破りの授業。『銀の匙』の内容を3年間かけて「追体験」するというもの。

この『銀の匙』の授業は30年間にわたって続いたらしい。
本書は、エチ先生本人への取材と、エチ先生の授業を受けた灘OBへのインタビューにより、その奇跡の授業の全貌を明らかにしたもの。OBの中には各界の先端で活躍する錚々たる人物が多いことに驚かされるが、それ以上に、それらのOBが長い学生生活の中において一人の教師から受けた3年間の授業を詳細に記憶し、それが人生形成に大きな意味を持っていることに驚かされる。少なくとも私はそのような教育者に出会ったことはない。6・3・3・4の16年間の学校に通ったが、詳細に記憶している授業など1つもない。

ここに書かれている読書法、勉強法、教育法は、いずれも私の常識を超えたものであるが、決して非常識な方法とは思わない。むしろ、この「奇跡の教室」で展開された授業こそが、真の研究、真の教育なのではないかと思った。

エチ先生は、たった一度、昭和37年5月の授業において、『銀の匙』の授業の真意を生徒に直接話したらしい(P139以降参照)。
その言葉が、非常に印象に残っている。
『たとえば、急いで読み進めていったとして、君たちに何が残ると思いますか? なんにも残らない。私の授業は速さを競っているわけではありません。君たちに速読を教えようとも思っていない。それよりも、みんなが少しでもひっかかったところ、関心を持ったところから自分で横道にそれていってほしいと思っています。どんどん調べて自分の世界を深めてほしい。

(中略)

すぐに役立つことは、すぐに役立たなくなります。そういうことを私は教えようとは思っていません。なんでもいい、少しでも興味をもったことから気持ちを起こしていって、どんどん自分を掘り下げてほしい。私の授業では、君たちがそのヒントを見つけてくれればいい……。

(中略)

そうやって自分で見つけたことは、君たちの一生の財産になります。そのことは、いつかわかりますから―――。』


銀の匙 (岩波文庫)銀の匙 (岩波文庫)
著者:中 勘助
岩波書店(1999-05-17)
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